説苑 / 尊賢
桓公問於管仲曰:「吾欲使爵腐於酒,肉腐於俎,得無害於霸乎?」管仲對曰:「此極非其貴者耳;然亦無害於霸也。」桓公曰:「何如而害霸?」管仲對曰:「不知賢,害霸;知而不用,害霸;用而不任,害霸;任而不信,害霸;信而復使小人參之,害霸。」桓公:「善。」
新字:桓公問於管仲曰:「吾欲使爵腐於酒,肉腐於俎,得無害於覇乎?」管仲対曰:「此極非其貴者耳;然亦無害於覇也。」桓公曰:「何如而害覇?」管仲対曰:「不知賢,害覇;知而不用,害覇;用而不任,害覇;任而不信,害覇;信而復使小人参之,害覇。」桓公:「善。」
書き下し
桓公管仲に問いて曰く、「吾爵をして酒に腐らしめ、肉をして俎に腐らしめんと欲す、覇に害無きを得んか」と。管仲対えて曰く、「此れ極めて其の貴ぶ所に非ざるのみ、然れども亦覇に害無きなり」と。桓公曰く、「何如なれば覇を害するか」と。管仲対えて曰く、「賢を知らざるは、覇を害す。知りて用いざるは、覇を害す。用いて任せざるは、覇を害す。任じて信ぜざるは、覇を害す。信じて復小人をして之に参わらしむるは、覇を害す」と。桓公曰く、「善し」と。
現代語訳
桓公が管仲に尋ねた。「私は杯の酒を腐らせ、俎板の肉を腐らせるほど(酒色にふけり贅沢に暮らそうと)思うが、それで覇業に害はないだろうか」。管仲は答えた。「それは決して立派なこととは言えませんが、覇業そのものに害を及ぼすことはありません」。桓公が「では何が覇業を害するのか」と問うと、管仲は答えた。「賢者を見抜けないこと、それが覇業を害します。見抜いていながら用いないこと、それが覇業を害します。用いていながら任せないこと、それが覇業を害します。任せていながら信じないこと、それが覇業を害します。信じていながら、さらに小人にその仕事へ口を挟ませること、それが覇業を害します」。桓公は「なるほど」と言った。
解説
桓公は自らの贅沢な私生活が覇業の障害になるのではと案じたが、管仲はそれを些事と一蹴し、本当に事業を蝕むのは人材の扱いをめぐる五段階の失敗――見抜けない、用いない、任せない、信じない、そして最後に小人物に横槍を入れさせる――であると明言した。経営者や管理職がしばしば自分の生活態度や些細な失点を気にする一方で、有能な部下に権限を委ねきれず、しかも信頼した相手の仕事に周囲の口出しを許してしまうという、より本質的な失敗を見過ごしがちであることをこの対話は突いている。特に「信じたのに横から茶々を入れさせる」という最後の一項は、権限委譲の仕上げを怠る組織に対する痛烈な警句である。
この章句が説くこと
用人五段階信任小人
関連する章句
-
説苑・尊賢或るひと曰く、「将に桓公を仁義と謂わんとするか、兄を殺して立つ、仁義に非ざるなり。将に桓公を恭倹と謂わんとするか、婦人と輿を同じくし、邑中に馳す、恭倹に非ざるなり。将に桓公を清潔と謂わんとするか、閨門の内、嫁すべき者無し、清潔に非ざるなり。此の三者は亡国失君の行いなり。然れども桓公兼ねて之を有す、管仲・隰朋を得るを以て、九たび諸侯を合わせ、一たび天下を匡し、畢く周室に朝せしめ、五霸の長と為る。其の賢佐を得ればなり。管仲・隰朋を失いて、豎刁・易牙に任じ、身死して葬られず、蟲流れて戸を出づ。一人の身、栄辱倶に施さるるは、何ぞや。其の任ずる所異なればなり」と。此に由りて之を観れば、則ち佐を任ずること急なり。周公旦は白屋の士、下る所の者七十人にして、天下の士皆至る。晏子は与に衣食を同じくする者百人にして、天下の士も亦た至る。仲尼は道を修め行い、文章を理めて、天下の士も亦た至る。伯牙子琴を鼓すれば、鍾子期之を聴く。方に鼓して志太山に在れば、鍾子期曰く、「善いかな鼓琴、巍巍乎として太山のごとし」と。少選の間にして、志流水に在れば、鍾子期復た曰く、「善いかな鼓琴、湯湯乎として流水のごとし」と。鍾子期死して、伯牙琴を破り絃を絶ち、終身復た琴を鼓さず、世に鼓琴を為すに足る者無しと為せばなり。独り鼓琴のみ此くの若きに非ざるなり、賢者も亦た然り。賢者有りと雖も之に接する以て無ければ、賢者奚に由りてか忠を尽くさん。驥自ら千里に至らざるは、伯楽を待ちて後に至ればなり。
-
貞観政要・誠信夫れ君能く礼を尽くさば、臣は忠を竭くすを得。必ず内外に私無く、上下相い信ずるに在り。上信ぜずんば、則ち以て下を使う無し。下信ぜずんば、則ち以て上に事うる無し。信の道為るは大なり。昔、斉の桓公、管仲に問いて曰く、「吾は酒をして爵に腐らしめ、肉をして俎に腐らしめんと欲す。覇に害無きを得んや」と。管仲曰く、「此れ極めて其の善き者に非ず。然れども亦た覇に害無きなり」と。桓公曰く、「如何にして覇を害するか」と。管仲曰く、「人を知る能わざるは、覇を害するなり。知りて任ずる能わざるは、覇を害するなり。任じて信ずる能わざるは、覇を害するなり。既に信じて又た小人をして之に参ぜしむるは、覇を害するなり」と。晋の中行穆伯、鼓を攻む。年を経て下す能わず。餽間倫(きかんりん)曰く、「鼓の嗇夫は、間倫之を知る。請う、士大夫を疲らす無くして、鼓は得べし」と。穆伯応ぜず。左右曰く、「一戟を折らず、一卒を傷つけずして、鼓は得べし。君は奚(なん)為れぞ取らざる」と。穆伯曰く、「間倫の人と為りや、佞にして不仁なり。若し間倫をして之を下さしめば、吾は以て之を賞せざるべけんや。若し之を賞せば、是れ佞人を賞するなり。佞人志を得ば、是れ晋国の士をして仁を舎(す)てて佞を為さしむ。鼓を得と雖も、将た何ぞ之を用いん」と。夫れ穆伯は、列国の大夫なり。管仲は、覇者の良佐なり。猶お能く信任を慎み、遠く佞人を避くること此くの如し。況んや四海の大君と為り、千齢の上聖に応ずるに、巍巍たる至徳の盛んなるをして、将に間つ所有らしむべけんや。
-
説苑・尊賢斉の桓公、管仲をして国を治めしむ。管仲対えて曰く、「賤は貴に臨む能わず」と。桓公以て上卿と為すも国治まらず。桓公曰く、「何の故ぞ」と。管仲対えて曰く、「貧は富を使う能わず」と。桓公之に斉国の市租一年を賜うも国治まらず。桓公曰く、「何の故ぞ」と。対えて曰く、「疏は親を制する能わず」と。桓公立てて仲父と為す。斉国大いに安んじ、遂に天下に覇たり。孔子曰く、「管仲の賢も、此の三権を得ざれば、亦其の君をして南面して覇たらしむる能わざりき」と。
-
説苑・君道斉の桓公、甯戚に問いて曰く、「筦子今年老いたり、寡人を棄てて世を就くを為さんとす、吾法令行われず、人多く職を失い、百姓疾み怨み、国盗賊多からんことを恐る。吾何如してか姦邪起こらず、民の衣食足らしめんか」と。甯戚対えて曰く、「要は賢を得て之に任ずるに在り」と。桓公曰く、「賢を得ること奈何」と。甯戚対えて曰く、「其の道路を開き、察して之を用い、其の位を尊び、其の禄を重んじ、其の名を顕かにせば、則ち天下の士騒然として足を挙げて至らん」と。桓公曰く、「既に以て賢士を挙げて之を用いんとするも、夫子の幸いに之に臨む微くんば、則ち未だ布衣屈奇の士の門を踵みて寡人に見えんことを求むる者有らず」と。甯戚対えて曰く、「是れ君の察すること明らかならず、之を挙ぐること顕かならず、而して之を用うること疑い、之に官すること卑しく、之に禄すること薄ければなり。且つ夫れ国の士を能くせざる所以は、五阻有り。主士を好まず、諂諛旁らに在るは、一阻なり。事に便なるを言う者、未だ嘗て用いられざるは、二阻なり。壅塞掩蔽して、必ず近習に因り、然る後に察せらるるは、三阻なり。獄を訊し窮して其の辞を詰め、法を以て之に過つは、四阻なり。事を執りて欲を適え、国の権命を擅にするは、五阻なり。此の五阻を去れば、則ち豪俊並び興り、賢智求め処る。五阻去らざれば、則ち上は吏民の情を蔽い、下は賢士の路を塞ぐ。是の故に明王聖主の治は、夫れ江海の受けざる無きが若し、故に長く百川の主為り。明王聖君容れざる無し、故に安楽にして長久なり。此に因りて之を観れば、則ち主を安んじ人を利する者は、独り一士のみに非ざるなり」と。桓公曰く、「善し、吾将に夫の五阻を著して以て戒めの本と為さんとす」と。
-
『管子』小問桓公管仲に謂いて曰く、「吾大國の服せざる者を伐たんと欲す、奈何」と。管仲對えて曰く、「先ず四封の内を愛し、然る後に以て竟外の不善なる者を惡む可し。先ず卿大夫の家を定め、然る後に以て鄰の敵國を危うくす可し。是の故に先王は必ず置く有り、然る後に廢する有り。必ず利する有り、然る後に害する有り」と。桓公位に踐み、社に釁り禱を塞ぐを令す。祝鳬已疪胙を獻ず。祝して曰く、「君の苛疾を除かんこと、若の虚多くして實少なきと與にせん」と。桓公説ばず、目を瞑じて祝鳬已疪を視る。祝鳬已疪酒を授けて之を祭る。曰く、「又た君の若賢と與にせん」と。桓公怒り、將に之を誅せんとして未だせざるに、以て管仲に復す。管仲是に於いて桓公の以て霸たる可きを知る。
-
説苑・君道武王、太公に問いて曰く、「賢を挙げて以て危亡する者は何ぞや」と。太公曰く、「賢を挙げて用いざるは、是れ賢を挙ぐるの名有りて、真賢の実を得ざるなり」と。武王曰く、「其の失は安くにか在る」と。太公望曰く、「其の失は君の小善を用うるを好むのみに在りて、真賢を得ざるなり」と。武王曰く、「小善を用うるを好む者は何如」と。太公曰く、「君誉を聴くを好みて讒を悪まざれば、非賢を以て賢と為し、非善を以て善と為し、非忠を以て忠と為し、非信を以て信と為す。其の君誉を以て功と為し、毀を以て罪と為す。功有る者賞せられず、罪有る者罰せられず。党多き者進み、党少なき者退く。是を以て群臣比周して賢を蔽い、百吏党を群して姦多し。忠臣は誹りを以て罪無くして死し、邪臣は誉を以て功無くして賞せらる。其の国危亡に見る」と。武王曰く、「善し、吾今日誹誉の情を聞けり」と。