呂氏春秋 / 上農⑦
若民不力田,墨乃家畜,國家難治,三疑乃極,是謂背本反則,失毀其國。凡民自七尺以上,屬諸三官。農攻粟,工攻器,賈攻貨。時事不共,是謂大凶。奪之以土功,是謂稽,不絕憂唯,必喪其秕。奪之以水事,是謂籥,喪以繼樂,四鄰來虛。奪之以兵事,是謂厲,禍因胥歲,不舉銍艾。數奪民時,大饑乃來。野有寢耒,或談或歌,旦則有昏,喪粟甚多。皆知其末,莫知其本,真。
新字:若民不力田,墨乃家畜,国家難治,三疑乃極,是謂背本反則,失毀其国。凡民自七尺以上,属諸三官。農攻粟,工攻器,賈攻貨。時事不共,是謂大凶。奪之以土功,是謂稽,不絶憂唯,必喪其秕。奪之以水事,是謂籥,喪以継楽,四鄰来虚。奪之以兵事,是謂厲,禍因胥歳,不舉銍艾。数奪民時,大饑乃来。野有寝耒,或談或歌,旦則有昏,喪粟甚多。皆知其末,莫知其本,真。
書き下し
若し民、田を力めず、乃の家畜を墨すれば、國家治め難く、三疑乃ち極まる。是を本に背き則に反き、其の國を失毀すと謂う。凡そ民、七尺自り以上は、諸を三官に屬す。農は粟を攻め、工は器を攻め、賈は貨を攻む。時事共にせざる、是を大凶と謂う。之を奪うに土功を以てする、是を稽と謂う。憂唯を絶たざれば、必ず其の秕を喪う。之を奪うに水事を以てする、是を籥と謂う。喪以て樂に繼ぎ、四鄰來たりて虐す。之を奪うに兵事を以てする、是を厲と謂う。禍いは胥歲に銍艾を舉げざるに因る。數々民時を奪えば、大饑乃ち來たる。野に寢耒有りて、或いは談じ或いは歌い、旦より則ち有た昏なれば、粟を喪うこと甚だ多し。皆其の末を知りて、其の本真を知ること莫ければなり。
現代語訳
もし民が田に励まず、その家産をすり減らしてしまえば、国家は治めにくくなり、三つの職分の侵し合い(三疑)が極限に達する。これを、根本(農)に背き、法則に逆らって、その国を損ない滅ぼすという。およそ民は身長七尺以上の成人になれば、農・工・商の三つの官(職分)に配属される。農民は穀物づくりに、工人は器物づくりに、商人は財貨の流通に専念する。この時々の務めをきちんと果たさないことを大凶という。土木工事によって農時を奪うことを稽(停滞)といい、その憂いを断たなければ必ずくず米しか収穫できなくなる。治水などの水仕事で農時を奪うことを籥といい、喪(飢え)が娯楽に続いて起こり、周辺の国々がつけこんで攻めてくる。軍事で農時を奪うことを厲(害毒)といい、その災いは一年中、穂を刈る鎌もとれない(収穫できない)ことから生じる。たびたび民の農時を奪えば、やがて大飢饉がやって来る。野には打ち捨てられた鋤があり、人々はおしゃべりしたり歌ったりして、朝からもう夕暮れのように怠けていれば、失う穀物はきわめて多い。それはみな枝葉末節(末)ばかりを知って、その根本(農)の大切さを知らないからである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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呂氏春秋・上農①古、先聖王の其の民を導く所以の者は、先づ農を務む。民の農たるは徒に地の利の為のみに非ざるなり。其の志を貴ぶなり。民農たれば則ち樸たり。樸たれば則ち用い易し。用い易ければ則ち邊境安く、主位尊し。民農たれば則ち重し。重ければ則ち私義少なし。私義少なければ、則ち公法立ち、力專一なり。民農たれば則ち其の產復す。其の產復せば則ち徙ることを重り、徙ることを重れば則ち處に死して二慮無し。民、本を舎てて末を事とすれば則ち令せられず。令せられざれば則ち以て守る可からず、以て戰う可からず。民、本を舎てて末を事とすれば則ち其の產約す。其の產約すれば則ち輕々しく遷徙す。輕々しく遷徙すれば則ち國家患い有り。皆遠志有れば、居心有る無し。民、本を舎てて末を事とすれば則ち智を好む。智を好めば則ち詐り多く、詐り多ければ則ち法令に巧みにして、是を以て非と為し、非を以て是と為す。
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呂氏春秋・任地⑤年有れば土を瘞り、年無きも土を瘞る。民時を失うこと無ければ、之をして下を治めしむること無し。貧富の利器を知れば、皆時至りて作し、時を渴して止む。是を以て老弱の力盡く起こす可し。其の日を用うること半ばにして、其の功倍せしむ可し。事を知らざる者は、時未だ至らずして之に逆らい、時既に往きて之を慕う。時に當たりて之を薄んじ、其の民をして之に郤らわしめ、民既に郤らえば、乃ち良時を以て慕う。此れ事に從うの下なり。事を操れば則ち苦しみ、高下を知らざれば、民は乃ち逾處す。稑禾を種うれども稑と為らず、重禾を種うれども重と為らず。是を以て粟少くして功を失う。
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呂氏春秋・上農④故に時の務めに當りてや、土功を興さず、師徒を作さず、庶人は冠弁・娶妻・嫁女・享祀せず、酒醴もて衆を聚めず、農は上聞せざれば、敢て私に庸に籍やしめず。害を時に為せばなり。苟しくも同姓に非ざれば、男は出でて御らず、女は外に嫁がず、以て農を安んずるなり。
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『君子訓』巻之中一農は国の本なり。一年の間隙なく耕作を務め、米穀を作り出して、上に貢し、万民を養ふものなり。最憐みて飢寒の憂なからしむべし。農の時を奪はざるは、農の為のみにあらず、国の為なり。農民は日夜勤労すれども、ややもすれば水早風虫の災ありて、其利少し。歳凶して土貢を納むることを欠けば、妻子を売り身を売るに至る。年豊なれば、米穀価やすくして困究をまぬかれず。利少き故なり。工人は其勤農に及ばざれど其利多し。商人の利は工に倍す。故に農人漸々に減じ、工商は年々に增す。田を作る者は少くして、器を造り、貨物を商ふ者多し。布を織るもの少くして、綾錦を製し繍染を事とする者多きは、世間困究の本なり。是を以て、古の明王は農を重んじて工商を抑へ、五穀を貴んで金玉を賤み給へり。倹約を行ひて華美を禁ずるは、本を重んじ末を抑ふるの道にして、国を治め民を安んずるの政なり。
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呂氏春秋・審時①凡そ農の道は、時に厚きを寶と為す。木を斬ること時ならざれば、折れずんば必ず穗く。稼就って穫らざれば、必ず天の菑いに遇う。夫れ稼は之を為す者は人なり、之を生ずる者は地なり、之を養う者は天なり。是を以て人之を稼するに足を容れ、之を耨るに耨を容れ、之を據うに手を容る。此を之れ耕道と謂う。
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『潜夫論』務本夫れ天の道を用い、地の利を分ち、六畜は時に生じ、百物は野に聚まる、此れ国を富ます本なり。遊業末事以て民利を収むるは、此れ邦を貧しくする原なり。忠信謹慎は、此れ徳義の基なり。虚無譎詭は、此れ乱道の根なり。故に力田は国を富ます所以なり。今民農桑を去り、遊業に赴き、披いて衆利を采り、之を一門に聚む、私家に於いて富む有りと雖も、然れども公計は愈いよ貧し。百工は、器を備えしむる所の者なり。器は事に便なるを以て善と為し、膠固なるを以て上と為す。今工は雕琢の器を造るを好み、巧偽もて之を飾り、以て民を欺き賄を取る。物は用に任ずるを以て要と為し、堅牢なるを以て資と為す。今商は競いて無用の貨を鬻ぎ、極侈の弊を淫にし、以て民を惑わし産を取る、淫商に於いて得有りと雖も、然れども国計は愈いよ失う。此の三者は、外は勤力して家を富ますの私名有りと雖も、内は民を損ない国を貧しくするの公実有り。故に政を為す者は明らかに工商を督し、淫偽せしむること勿れ。遊業を困辱し、利を擅にせしむること勿れ。本農を寛仮して学士を寵遂すれば、則ち民富みて国平らかなり。夫れ教訓は、道術を遂げて徳義を崇ぶ所以なり。

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