呂氏春秋 / 處方④
韓昭釐侯出弋,靷偏緩。昭釐侯居車上,謂其僕:「靷不偏緩乎?」其僕曰:「然。」至,舍,昭釐侯射鳥,其右攝其一靷,適之。昭釐侯已射,駕而歸,上車,選間,曰:「鄉者靷偏緩,今適,何也?」其右從後對曰:「今者臣適之。」昭釐侯至,詰車令。各避舍。故擅為妄意之道雖當,賢主不由也。
新字:韓昭釐侯出弋,靷偏緩。昭釐侯居車上,謂其僕:「靷不偏緩乎?」其僕曰:「然。」至,舎,昭釐侯射鳥,其右摂其一靷,適之。昭釐侯已射,駕而帰,上車,選間,曰:「鄉者靷偏緩,今適,何也?」其右従後対曰:「今者臣適之。」昭釐侯至,詰車令。各避舎。故擅為妄意之道雖当,賢主不由也。
書き下し
韓の昭釐侯、出でて弋す。靷偏り緩む。昭釐侯、車上に居り、其の僕に謂う、「靷偏り緩まずや。」其の僕曰く、「然り。」舍に至る。昭釐侯、鳥を射る。其の右、其の一靷を攝り、之を適せしむ。昭釐侯已に射、駕して歸らんとし、車に上る。選間して曰く、「鄉者に靷偏り緩めり。今適せるは、何ぞや。」其の右後從り對えて曰く、「今者、臣之を適す。」昭釐侯至り、車令と右とを詰む。各々舎を避けしむ。故に擅に妄意の道を為すは、當たると雖も、賢主は由らざるなり。
現代語訳
韓の昭釐侯が狩りに出た。靷(むながい)が片方緩んでいた。昭釐侯は車上にいて御者に「靷が片方緩んでいないか」と言った。御者は「そうです」と答えた。宿舎に着き、昭釐侯が鳥を射る間に、車右がその一方の靷を締めて直した。昭釐侯は射終えて車を駆って帰ろうと車に乗り、しばらくして言った。「先ほど靷が片方緩んでいた。今直っているのはなぜか」。車右が後ろから「今、私が直しました」と答えた。昭釐侯は着くと、御者と車右を問いただし、それぞれの職場を離れさせた。だから勝手に憶測で事を行うのは、たとえ的中しても、賢明な君主は用いない。
解説
この段は、職分を越えた行いは結果が良くても退けるべきだと説きます。車右が独断で靷を直したのは正しい処置でしたが、それは御者の職分を侵す越権でした。昭釐侯は的中したこと自体でなく、職分を勝手に越えた点を咎め、御者と車右双方を職場から遠ざけました。背景には、名分と職掌を厳格に守らせる統治思想があります。核心は「妄意の道は当たっても賢主は由らず」、すなわち一度の好結果より秩序の維持を優先する姿勢です。現代の組織でも、担当外の独断が偶然うまくいっても、越権を常態化させれば責任の所在が乱れ統制が崩れます。結果オーライを許さず職分と手続きを重んじる規律の意義を、時に厳しすぎるほど鮮明に示す一段です。
この章句が説くこと
昭釐侯靷越権職分規律結果オーライの否定
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