呂氏春秋 / 淫辭⑥
宋有澄子者,亡緇衣,求之塗,見婦人衣緇衣,援而弗舍,欲取其衣,曰:「今者我亡緇衣。」婦人曰:「公雖亡緇衣,此實吾所自為也。」澄子曰:「子不如速與我衣。昔吾所亡者,紡緇也。今子之衣,禪緇也。以襌緇當紡緇,子豈不得哉?」
新字:宋有澄子者,亡緇衣,求之塗,見婦人衣緇衣,援而弗舎,欲取其衣,曰:「今者我亡緇衣。」婦人曰:「公雖亡緇衣,此実吾所自為也。」澄子曰:「子不如速与我衣。昔吾所亡者,紡緇也。今子之衣,禅緇也。以襌緇当紡緇,子豈不得哉?」
書き下し
宋に澄子なる者有り。緇衣を亡い、之を塗に求む。婦人の緇衣を衣るを見て、援きて舍さず。其の衣を取らんと欲して、曰く、「今者、我、緇衣を亡う。」婦人曰く、「公、緇衣を亡うと雖も、此れ實に吾が自ら爲る所なり。」澄子曰く、「子、速かに我に衣を與うるに如かず。昔に吾の亡う所の者は、紡緇なり。今子の衣は、禪緇なり。襌緇を以て紡緇に當つれば、子豈に得ざらんや。」
現代語訳
宋に澄子という者がいた。黒い着物をなくし、それを道で探した。ある婦人が黒い着物を着ているのを見て、引き止めて放さなかった。その着物を取り上げようとして言った、「私は今、黒い着物をなくしたのだ。」婦人は言った、「あなたが黒い着物をなくしたとしても、これは確かに私が自分で作ったものです。」澄子は言った、「あなたは早く私に着物を渡すに越したことはない。私がなくしたのは裏地付きの黒い着物だ。今あなたの着物は一重の黒い着物だ。一重を裏地付きに引き換えるのだから、あなたはむしろ得をするではないか。」
解説
この段は、黒い着物をなくした澄子が、他人の着物を強奪しようと理屈をこねる滑稽な話です。相手の一重の着物を奪い、自分がなくした裏地付きと引き換えるのだから得だろうと言い張ります。要点は、言葉の上ではもっともらしい理屈でも、実態は身勝手な強奪にすぎないということです。巧言が不正を覆い隠す様を戯画的に描く淫辞篇の主題が背景にあります。現代でも、自分に都合のよい理屈をこしらえて他人の権利を侵し、あたかも相手の利益のように語る詭弁はあります。言葉の体裁に惑わされず、その行いが実際には何をしているのかを見抜く目が必要だと、笑い話の形で教える一段です。
この章句が説くこと
澄子宋緇衣詭弁強奪巧言
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