呂氏春秋 / 自知④
范氏之亡也,百姓有得鍾者,欲負而走,則鍾大不可負,以椎毀之,鍾況然有音,恐人聞之而奪己也,遽揜其耳。惡人聞之可也,惡己自聞之悖矣。為人主而惡聞其過,非猶此也?惡人聞其過尚猶可。
新字:范氏之亡也,百姓有得鍾者,欲負而走,則鍾大不可負,以椎毀之,鍾況然有音,恐人聞之而奪己也,遽揜其耳。悪人聞之可也,悪己自聞之悖矣。為人主而悪聞其過,非猶此也?悪人聞其過尚猶可。
書き下し
范氏の亡ぶるや、百姓に鍾を得たる者有り、負いて走らんと欲すれば、則ち鍾大にして負う可からず。椎を以て之を毀たんとすれば、鍾況然として音有り。人の之を聞きて己より奪わんことを恐れ、遽かに其の耳を揜う。人の之を聞くを惡むは可なり、己れ自ら之を聞くを惡むは悖れり。人主為りて其の過ちを聞くを惡むは、猶ほ此のごときに非ずや。惡人の其の過ちを聞くを惡むは尚猶ほ可なり。
現代語訳
晋の范氏が滅んだとき、ある庶民が鐘を手に入れた。背負って逃げようとしたが、鐘は大きくて背負えない。槌で壊そうとすると、鐘はガーンと鳴った。人がその音を聞いて自分から奪うのを恐れ、あわてて自分の耳を塞いだ。他人が聞くのを嫌うのはまだよいが、自分が聞くのを嫌うのは道理に反している。君主でありながら自分の過ちを聞くのを嫌うのは、まさにこれと同じではないか。他人が自分の過ちを聞くのを嫌うのなら、まだましである。
解説
この段は、鐘を盗もうとした男が、鐘の音を人に聞かれまいとして自分の耳を塞いだという「耳を掩いて鐘を盗む」の寓話です。他人に聞かれるのを恐れるのはまだしも、自分が聞くのを拒むのは本末転倒だと説き、過ちの指摘を嫌う君主をこれになぞらえます。背景には、都合の悪い事実から目や耳をふさぐ愚かさへの戒めがあります。この故事は現在も「掩耳盗鈴(耳を掩いて鈴を盗む)」として自己欺瞞の代名詞です。現代でも、問題を認めたくないがゆえに情報を遮断する態度は、事態を悪化させます。真実を直視する勇気の大切さを、鮮やかな寓話で伝えてくれます。
この章句が説くこと
范氏掩耳盗鈴自己欺瞞過ち自知寓話
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