呂氏春秋 / 淫辭①
──非辭無以相期,從辭則亂。亂辭之中又有辭焉,心之謂也。言不欺心,則近之矣。凡言者,以諭心也。言心相離,而上無以參之,則下多所言非所行也,所行非所言也。言行相詭,不祥莫大焉
新字:──非辞無以相期,従辞則乱。乱辞之中又有辞焉,心之謂也。言不欺心,則近之矣。凡言者,以諭心也。言心相離,而上無以参之,則下多所言非所行也,所行非所言也。言行相詭,不祥莫大焉
書き下し
辭に非ざれば以て相期する無く、辭を從にすれば則ち亂る。辭の中又辭有り。心の謂なり。言いて心を欺かざれば、則ち之に近し。凡そ言なる者は、以て心を諭すなり。言心相離れて、上以て之を參る無ければ、則ち下多く言う所は行う所に非ず、行う所は言う所に非ざるなり。言行相詭うは、不祥なること焉より大なるは莫し。
現代語訳
言葉がなければ互いに約束を交わすこともできないが、言葉のままに放任すれば乱れる。言葉の中にはさらに言葉がある。心のことである。言って心を欺かなければ、正しさに近い。およそ言葉とは心を伝えるものである。言葉と心が食い違い、上の者がそれを照らし合わせて確かめなければ、下の者は言うことが行うことと異なり、行うことが言うことと異なるようになる。言葉と行いが食い違うほど、不吉なことはこれより大きいものはない。
解説
この段は淫辞篇の総論で、言葉と心、言葉と行いの一致を主題に据えます。言葉は約束や意思疎通に不可欠ですが、放任すれば乱れの元にもなります。要点は、言葉の奥には心があり、その心を偽らない言葉こそ正しいということです。上に立つ者が言と実を照合しなければ、下の者の言行不一致が広がるという統治論が背景にあります。現代でも、掲げた方針と実際の行動が食い違えば、組織の信頼は崩れます。発言と本心、発言と実行を一致させ、リーダーがそれを不断に確かめることが、言葉が乱れて災いを招くのを防ぐ要だと教える、篇の枠組みを示す一段です。
この章句が説くこと
淫辞言心一致言行一致参照不祥統治
関連する章句
-
荀子・大略篇自ら其の行ひに嗛(あきた)らざる者は、言濫(らん)に過ぐ。古の賢人は、賤しくして布衣(ほい)為(た)り、貧しくして匹夫為り。食へば則ち饘粥(せんしゅく)も足らず、衣れば則ち豎褐(じゅかつ)も完(まった)からず。然り而して礼に非ざれば進まず、義に非ざれば受けず。安(いづ)くんぞ此れを取らん。
-
論語・憲問篇子曰わく、君子はその言にして行に過ぐるを恥ず。
-
論語・子路篇子貢問いて曰く、「何如なれば斯れ之を士と謂う可き。」子曰く、「己を行うに恥有り、四方に使いして、君命を辱めざる、士と謂う可し。」曰く、「敢えて其の次を問う。」曰く、「宗族孝を称し、郷党弟を称す。」曰く、「敢えて其の次を問う。」曰く、「言必ず信、行必ず果、硜硜然たる小人なるかな。抑々亦た以て次と為す可し。」曰く、「今の政に従う者は何如。」子曰く、「噫、斗筲の人、何ぞ算うるに足らんや。」
-
論語・憲問篇子曰わく、その言の怍(はじ)ざるは、これを為すこと難し。
-
論語・里仁篇子曰わく、古者は言を出さざるは、躬の逮ばざるを恥ずればなり。
-
呉子・図国篇呉起、儒服にして兵機を以て魏の文侯に見ゆ。文侯曰く、「寡人は軍旅の事を好まず」と。起曰く、「臣は見るるところを以て隠れたるを占い、往きしを以て来たるを察す。主君何ぞ言と心と違うことを言わるるや。今、君は四時に人をして皮革を斬り離たしめ、掩うに朱漆を以てし、画くに丹青を以てし、爍かすに犀象を以てす。冬日に之を衣れば則ち温かならず、夏日に之を衣れば則ち涼しからず。長戟は二丈四尺、短戟は一丈二尺を為る。革車は戸を奄い、輪を縵にし轂を籠む。之を目に観れば則ち麗しからず、之に乗りて以て田すれば則ち軽からず。識らず、主君安んぞ此を用いんや。若し以て進みて戦い退きて守るに備うるも、能く用うる者を求めざれば、譬えば猶お伏鶏の狸を搏ち、乳犬の虎を犯すがごとし。闘心有りと雖も、之に随いて死せんのみ。昔、承桑氏の君は、徳を修めて武を廃し、以て其の国を滅ぼせり。有扈氏の君は、衆を恃み勇を好み、以て其の社稷を喪えり。明主は茲に鑒み、必ず内には文徳を修め、外には武備を治む。故に敵に当たりて進まざるは、義に逮ぶこと無きなり。僵屍して之を哀しむは、仁に逮ぶこと無きなり」と。是に於いて文侯は身自ら席を布き、夫人は觴を捧げ、呉起を廟に醮し、立てて大将と為し、西河を守らしむ。諸侯と大いに戦うこと七十六、全勝六十四、余は則ち鈞しく解く。土を四面に闢き、地を拓くこと千里なるは、皆な起の功なり。