呂氏春秋 / 離謂⑥
齊人有淳于髡者,以從說魏王。魏王辯之,約車十乘,將使之荊。辭而行,有以橫說魏王,魏王乃止其行。失從之意,又失橫之事。夫其多能不若寡能,其有辯不若無辯。周鼎著倕而齕其指,先王有以見大巧之不可為也。
新字:斉人有淳于髡者,以従説魏王。魏王辯之,約車十乗,将使之荊。辞而行,有以横説魏王,魏王乃止其行。失従之意,又失横之事。夫其多能不若寡能,其有辯不若無辯。周鼎著倕而齕其指,先王有以見大巧之不可為也。
書き下し
齊人に淳于髡という者有り。從を以て魏王に説く。魏王、之を辯とし、車十乘を約し、將に荊に之かしめんとす。辭して行かんとし、有た横を以て魏王に説く。魏王乃ち其の行を止む。從の意を失い、又橫の事を失う。夫れ其の能多きは能寡きに若かず。其の辯有るは辯無きに若ず。周鼎に倕を著わして其の指を齕ましむ。先王以て大巧の爲す可からざるを見す有るなり。
現代語訳
斉の人に淳于髡という者がいた。合従策で魏王を説いた。魏王は彼を弁が立つと評価し、車十乗を用意して、まさに楚へ遣わそうとした。淳于髡は挨拶して出発しようとしたが、今度は連衡策で魏王を説いた。そこで魏王は彼の派遣を取りやめた。合従の意図も失い、連衡の事も失ったのである。そもそも才能が多すぎるのは才能が少ないのに及ばず、弁が立つのは弁が立たないのに及ばない。周の鼎には工人の倕を鋳込んで自分の指を噛ませた姿が描かれている。いにしえの王は、それによって過度の巧みさはなすべきでないことを示したのである。
解説
この段は、弁舌家の淳于髡が魏王に合従を説いて起用されかけるや、今度は正反対の連衡を説き、結局どちらの機会も失う話です。才知が多すぎて一貫性を欠けば、かえって何も成し遂げられません。要点は、能力や弁舌は多ければよいというものではなく、節度と一貫性を欠けば無いに劣るということです。周の鼎に名工が自分の指を噛む姿を刻み、過度の巧みさを戒めた故事を引く背景があります。現代でも、器用に立場を変えて弁じる人は信頼を失い、機会も逃します。多才さよりも筋の通った一貫性こそ実を結ぶと教える、離謂篇を締めくくる一段です。
この章句が説くこと
淳于髡合従連衡魏王一貫性大巧弁舌
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