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呂氏春秋 / 離謂③

洧水甚大,鄭之富人有溺者。人得其死者。富人請贖之,其人求金甚多,以告鄧析。鄧析曰:「安之。人必莫之賣矣。」得死者患之,以告鄧析。鄧析又答之曰:「安之。此必無所更買矣。」夫傷忠臣者,有似於此也。夫無功不得民,則以其無功不得民傷之;有功得民,則又以其有功得民傷之。人主之無度者,無以知此,豈不悲哉?比干、萇弘以此死,箕子、商容以此窮,周公、召公以此疑,范蠡、子胥以此流,死生存亡安危,從此生矣。

新字:洧水甚大,鄭之富人有溺者。人得其死者。富人請贖之,其人求金甚多,以告鄧析。鄧析曰:「安之。人必莫之売矣。」得死者患之,以告鄧析。鄧析又答之曰:「安之。此必無所更買矣。」夫傷忠臣者,有似於此也。夫無功不得民,則以其無功不得民傷之;有功得民,則又以其有功得民傷之。人主之無度者,無以知此,豈不悲哉?比干、萇弘以此死,箕子、商容以此窮,周公、召公以此疑,范蠡、子胥以此流,死生存亡安危,従此生矣。

書き下し

洧水甚だ大にして、鄭の富人に溺るる者有り。人、其の死者を得たり。富人之を贖わんことを請う。其の人金を求むること甚だ多し。以て鄧析に告ぐ。鄧析曰く、「之を安んぜよ。人必ず之を賣ること莫からん。」死を得たる者之を患う。以て鄧析に告ぐ。鄧析又之に答えて曰く、「之を安んぜよ。此れ必ず更に買う所無からん。」夫れ忠臣を傷つくる者は、此に似たること有るなり。夫れ功無くして民を得ざれば、則ち其れ功無くして民を得ざるを以て之を傷つく。功有りて民を得れば、則ち又其の功有りて民を得るを以て之を傷つく。人主の度無き者、以て此を知ること無し。豈に悲しからずや。比干・萇弘は此を以て死し、箕子・商容は此を以て窮し、周公・召公は此を以て疑われ、范蠡・子胥は此を以て流さる。死生存亡安危は、此れ從り生ず。

現代語訳

洧水が大変増水し、鄭の富人で溺れ死んだ者がいた。ある人がその遺体を拾った。富人は買い戻したいと申し出たが、拾った人は法外な金額を求めた。富人はこれを鄧析に相談した。鄧析は「落ち着きなさい。他に売る相手はいないのだから」と言った。遺体を得た者も心配して鄧析に相談した。鄧析はまた「落ち着きなさい。他に買う相手はいないのだから」と答えた。そもそも忠臣を傷つける論法は、これに似ている。功績がなく人望も得られなければ、功績がなく人望がないことを理由に傷つけられる。功績があり人望を得れば、今度は功績があり人望があることを理由に傷つけられる。度量のない君主は、このからくりを見抜けない。何と悲しいことか。比干と萇弘はこれで死に、箕子と商容はこれで困窮し、周公と召公はこれで疑われ、范蠡と子胥はこれで追われた。生死・存亡・安危は、ここから生じるのである。

解説

この段は、鄧析が溺死体をめぐって売り手にも買い手にも都合よく助言し、双方を待たせる話です。同じ論法で正反対の相手を丸め込む詭弁を、著者は忠臣を陥れる論法になぞらえます。功がなくても功がないと責められ、功があっても功があると疑われる。どちらに転んでも人を傷つけられるのです。要点は、事実ではなく言葉の操作で人を追い込む危うさです。名臣たちが讒言で失脚した歴史が背景にあります。現代でも、成果を出しても出さなくても難癖をつける論法は組織に潜みます。度量ある指導者は言葉のからくりを見抜き、事実に基づいて判断する必要があると教える一段です。

この章句が説くこと

洧水鄧析詭弁忠臣讒言度量

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