了凡四訓 / 積善之方・言を以て教へずして身を以て之を轉ず
隨緣濟眾,其類至繁,約言其綱,大約有十:第一、與人為善;第二、愛敬存心;第三、成人之美;第四、勸人為善;第五、救人危急;第六、興建大利;第七、捨財作福;第八、護持正法;第九、敬重尊長;第十、愛惜物命。 何謂與人為善?昔舜在雷澤,見漁者皆取深潭厚澤,而老弱則漁於急流淺灘之中,惻然哀之,往而漁焉;見爭者皆匿其過而不談,見有讓者,則揄揚而取法之。朞年,皆以深潭厚澤相讓矣。夫以舜之明哲,豈不能出一言教眾人哉?乃不以言教而以身轉之,此良工苦心也。
新字:随縁済衆,其類至繁,約言其綱,大約有十:第一、与人為善;第二、愛敬存心;第三、成人之美;第四、勧人為善;第五、救人危急;第六、興建大利;第七、捨財作福;第八、護持正法;第九、敬重尊長;第十、愛惜物命。 何謂与人為善?昔舜在雷沢,見漁者皆取深潭厚沢,而老弱則漁於急流浅灘之中,惻然哀之,往而漁焉;見争者皆匿其過而不談,見有譲者,則揄揚而取法之。朞年,皆以深潭厚沢相譲矣。夫以舜之明哲,豈不能出一言教衆人哉?乃不以言教而以身転之,此良工苦心也。
書き下し
緣に隨ひて眾を濟ふこと、其の類至って繁し。約して其の綱を言はば、大約十有り。第一、人と善を為す。第二、愛敬心に存す。第三、人の美を成す。第四、人に勸めて善を為さしむ。第五、人の危急を救ふ。第六、大利を興建す。第七、財を捨てて福を作す。第八、正法を護持す。第九、尊長を敬重す。第十、物命を愛惜す。 何をか人と善を為すと謂ふ。昔舜雷澤に在りしとき、漁者皆な深潭厚澤を取りて、老弱は則ち急流淺灘の中に漁するを見て、惻然として之を哀れみ、往きて漁す。爭ふ者を見れば皆な其の過ちを匿して談ぜず、讓る者有るを見れば、則ち揄揚して之に取法す。朞年にして、皆な深潭厚澤を以て相讓る。夫れ舜の明哲を以てして、豈に一言を出して眾人に教ふる能はざらんや。乃ち言を以て教へずして身を以て之を轉ず。此れ良工の苦心なり。
現代語訳
縁に応じて人々を救う方法は、その種類がきわめて多いのですが、要点をまとめて言えば、おおよそ十あります。第一に、人と共に善を行うこと。第二に、愛と敬いを心に保つこと。第三に、人の美点を成就させること。第四に、人に善を勧めること。第五に、人の危急を救うこと。第六に、大きな利益となる事業を興すこと。第七に、財を捨てて福を作ること。第八に、正しい教えを守り保つこと。第九に、目上の人を敬い重んじること。第十に、生き物の命を愛おしむことです。 人と共に善を行うとは何でしょうか。昔、舜が雷沢にいたとき、漁をする者がみな深い淵や豊かな沢を占め、年寄りや弱い者は流れの急な浅瀬で漁をしているのを見て、心を痛めて哀れみ、自分もそこへ行って漁をしました。争う者を見ると、その過ちには触れずに黙っておき、譲る者を見ると、ほめたたえてそれを手本としました。一年たつと、みな深い淵や豊かな沢を互いに譲り合うようになりました。舜ほどの聡明さがあれば、一言で人々に教えることができなかったはずがありません。それなのに言葉で教えず、自分の身をもって人々を変えたのです。これは優れた職人の苦心というものです。
解説
この章句が説くこと
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『了凡四訓』積善之方・己の長を以て人を蓋ふ勿かれ吾輩末世に處りては、己の長を以て人を蓋ふ勿かれ。己の善を以て人を形はす勿かれ。己の多能を以て人を困しむる勿かれ。才智を收斂して、無きが若く虛しきが若くせよ。人の過失を見ては、且く涵容して之を掩覆せよ。一は則ち其をして改むべからしめ、一は則ち其をして顧忌する所有りて敢へて縱にせざらしむ。人に微長の取るべき、小善の錄すべき有るを見ては、翻然として己を捨てて之に從ひ、且つ為に豔稱して廣く之を述べよ。凡そ日用の間、一言を發し、一事を行ふに、全く自己の為に念を起さず、全く是れ物の為に則を立つ。此れ大人の天下を公と為すの度なり。
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『了凡四訓』積善之方・人の人為る所以は惟だ此の惻隱の心のみ何をか物命を愛惜すと謂ふ。凡そ人の人為る所以の者は、惟だ此の惻隱の心のみ。仁を求むる者は此を求め、德を積む者は此を積む。周禮に、孟春の月、犧牲に牝を用ゐること毋かれ、と。孟子謂ふ、君子は庖廚を遠ざく、と。吾が惻隱の心を全うする所以なり。故に前輩に四不食の戒め有り。謂ふこころは、殺すを聞けば食はず、殺すを見れば食はず、自ら養ふ者は食はず、專ら我が為に殺す者は食はず、と。學者未だ肉を斷つ能はずんば、且く當に此より之を戒むべし。 漸漸に增進すれば、慈心愈々長ず。特に殺生を當に戒むべきのみならず、蠢動含靈、皆な物命為り。絲を求めて繭を煮、地を鋤きて蟲を殺す。衣食の由來を念へば、皆な彼を殺して以て自ら活く。故に暴殄の孽は、當に殺生と等しかるべし。手の誤りて傷つくる所、足の誤りて踐む所に至りては、其の幾ばくなるかを知らず。皆な當に委曲して之を防ぐべし。古詩に云ふ、鼠を愛して常に飯を留め、蛾を憐れみて燈を點ぜず、と。何ぞ其れ仁なるや。 善行は窮まり無く、殫く述ぶる能はず。此の十事よりして之を推し廣むれば、則ち萬德備はるべし。
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『了凡四訓』積善之方・百世に人に勸むるは書を以てす何をか人に勸めて善を為さしむと謂ふ。生まれて人類と為る、孰か良心無からん。世路役役として、最も沒溺し易し。凡そ人と相處るには、當に方便して提撕し、其の迷惑を開くべし。譬へば猶ほ長夜の大夢に、之をして一たび覺めしむるがごとく、譬へば猶ほ久しく煩惱に陷るに、之を清涼に拔くがごとし。惠を為すこと最も溥し。韓愈云ふ、一時に人に勸むるは口を以てし、百世に人に勸むるは書を以てす、と。之を人と善を為すに較ぶれば、形跡有りと雖も、然れども證に對して藥を發すれば、時に奇效有り、廢すべからざるなり。言を失ひ人を失はば、當に吾が智に反るべし。
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『了凡四訓』積善之方・善を為して理を窮めざれば凡そ此の十條、行ふ所同じからざるも、同じく善に歸するのみ。若し復た精しく之を言はば、則ち善に真有り、假有り。端有り、曲有り。陰有り、陽有り。是有り、非有り。偏有り、正有り。半有り、滿有り。大有り、小有り。難有り、易有り。皆な當に深く辨ずべし。善を為して理を窮めざれば、則ち自ら行持すと謂ふも、豈に孽を造るを知らんや。枉げて苦心を費やすも、益無きなり。 何をか真假と謂ふ。昔儒生數輩有り、中峰和尚に謁して、問ひて曰く、佛氏の善惡の報應を論ずるは、影の形に隨ふが如し。今某人は善なるに、子孫興らず。某人は惡なるに、家門隆盛なり。佛の說は稽ふる無し、と。中峰云ふ、凡情未だ滌はれず、正眼未だ開かず、善を認めて惡と為し、惡を指して善と為すこと、往往にして之有り。己の是非顛倒するを憾みずして、反つて天の報應に差有るを怨むか、と。眾曰く、善惡何ぞ相反するを致さん、と。中峰試みに其の狀を言はしむ。一人謂ふ、人を詈り人を毆つは是れ惡、人を敬ひ人を禮するは是れ善なり、と。中峰云ふ、未だ必ずしも然らざるなり、と。一人謂ふ、財を貪り妄りに取るは是れ惡、廉潔にして守有るは是れ善なり、と。中峰云ふ、未だ必ずしも然らざるなり、と。眾人歷く其の狀を言ふも、中峰皆な然らずと謂ふ。
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『了凡四訓』積善之方・惠は大に在らず、人の急に赴けば可なり何をか人の危急を救ふと謂ふ。患難顛沛は、人の時に有る所なり。偶ま一たび之に遇はば、當に痌瘝の身に在るが如く、速やかに為に解救すべし。或いは一言を以て其の屈抑を伸べ、或いは多方を以て其の顛連を濟ふ。崔子曰く、惠は大に在らず、人の急に赴けば可なり、と。蓋し仁人の言なるかな。 何をか大利を興建すと謂ふ。小にしては一鄉の內、大にしては一邑の中、凡そ利益有るものは、最も宜しく興建すべし。或いは渠を開きて水を導き、或いは堤を築きて患を防ぎ、或いは橋樑を修めて、以て行旅を便にし、或いは茶飯を施して、以て飢渴を濟ふ。緣に隨ひて勸導し、力を協せて興修し、嫌疑を避くる勿かれ、勞怨を辭する勿かれ。
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『了凡四訓』積善之方・君知らずと謂ひて自ら恣にすること毋かれ何をか正法を護持すと謂ふ。法なる者は、萬世の生靈の眼目なり。正法有らずんば、何を以てか天地に參贊せん。何を以てか萬物を裁成せん。何を以てか塵を脫し縛を離れん。何を以てか世を經め世を出でん。故に凡そ聖賢の廟貌、經書典籍を見ば、皆な當に敬重して之を修飭すべし。正法を舉揚して、上佛恩に報ゆるに至りては、尤も當に勉勵すべし。 何をか尊長を敬重すと謂ふ。家の父兄、國の君長、與び凡そ年高く、德高く、位高く、識高き者は、皆な當に意を加へて奉事すべし。家に在りて父母に奉侍するには、深愛婉容、柔聲下氣ならしめ、習ひて以て性と成さば、便ち是れ和氣天に格るの本なり。出でて君に事ふるには、一事を行ふに、君知らずと謂ひて自ら恣にすること毋かれ。一人を刑するに、君知らずと謂ひて威を作すこと毋かれ。君に事ふること天の如くせよとは、古人の格論なり。此れ等の處最も陰德に關はる。試みに看よ、忠孝の家、子孫未だ綿遠にして昌盛ならざる者有らず。切に須らく之を慎むべし。