論語 / 微子篇
楚狂接輿,歌而過孔子,曰:「鳳兮!鳳兮!何德之衰?往者不可諫,來者猶可追。已而!已而!今之從政者殆而!」孔子下,欲與之言。趨而辟之,不得與之言。
新字:楚狂接輿,歌而過孔子,曰:「鳳兮!鳳兮!何徳之衰?往者不可諫,来者猶可追。已而!已而!今之従政者殆而!」孔子下,欲与之言。趨而辟之,不得与之言。
書き下し
楚の狂接輿、歌いて孔子を過ぎて曰く、「鳳や、鳳や、何ぞ徳の衰えたる。往く者は諫む可からず、来る者は猶お追う可し。已みなん、已みなん。今の政に従う者は殆うし。」孔子下りて、之と言わんと欲す。趨りて之を辟く。之と言うことを得ず。
現代語訳
楚の狂者である接輿が、歌いながら孔子のそばを通り過ぎて言った。「鳳よ、鳳よ、なんと徳が衰えたことか。過ぎたことは諌めても仕方がない。これから来ることは、まだ追いつける。やめよ、やめよ。今の世で政治に関わる者は危ういぞ。」孔子は車を降りて話をしようとされた。しかし相手は小走りに避けて、話すことができなかった。
解説
隠者が忠告を歌に託して通り過ぎる。孔子は車を降りて話そうとしたが、相手は逃げた。この場面の妙は、孔子が反論しようとしたのではなく、話そうとしたことにある。降りて向かった。批判者と対話しようとする姿勢である。接輿の忠告は的を射ている。今の世で政治に関わる者は危うい。実際、孔子は不遇に終わった。それでも孔子は、その忠告を聞き流さずに向かい合おうとした。結果として対話は成立しなかったが、姿勢は記録に残った。厳しい批判を受けたときの反応として、参考になる。無視するのでも反論するのでもなく、降りて向かう。相手が逃げたとしても、向かったという事実は自分の中に残る。批判者と話そうとしたかどうかは、後になって効いてくる。
この章句が説くこと
隠者批判対話接輿姿勢
関連する章句
-
論語・微子篇子路従いて後る。丈人の、杖を以て蓧を荷うに遇う。子路問いて曰く、「子、夫子を見たるか。」丈人曰く、「四体勤めず、五穀分たず。孰をか夫子と為す。」其の杖を植てて芸る。子路拱して立つ。子路を止めて宿らしめ、鶏を殺し黍を為りて之を食わしめ、其の二子を見えしむ。明日、子路行きて以て告ぐ。子曰く、「隠者なり。」子路をして反りて之を見しむ。至れば則ち行けり。子路曰く、「仕えざるは義無し。長幼の節、廃す可からざるなり。君臣の義、之を如何ぞ其れ廃せんや。其の身を潔くせんと欲して、大倫を乱る。君子の仕うるや、其の義を行うなり。道の行われざるは、已に之を知れり。」
-
『呻吟語』外篇・品藻・誰か你が個の高人を成就せん巢父・許由は、世間此等の人を要して甚をか作さん。荷蕢晨門、長沮桀溺は世道已に為す可からざるを知り、自ら無道なれば則ち隱るる一種の道理有り。巢・由一派は許多の人皆な堯・舜を污濁し、臯・夔を噦吐す有り。自ら曠古の高人と謂ふも、而して仕へざるは義無く、一身を潔くして天下を病ましむるを知らず。吾が道の罪人なり。且つ世に巢・許無きも其の唐虞爲るを害せず。堯・舜・臯・夔無くんば、巢・許も也た安頓する處沒し。誰か你が個の高人を成就せん。
-
論語・憲問篇子、磬を衛に撃つ。蕢を荷いて孔氏の門を過ぐる者有り、曰く、「心有るかな、磬を撃つや。」既にして曰く、「鄙なるかな、硜硜乎たり。己を知ること莫くんば、斯れ已まんのみ。『深ければ則ち厲し、浅ければ則ち掲す。』」子曰く、「果なるかな。之を難ずること末し。」
-
論語・微子篇長沮・桀溺、耦して耕す。孔子之を過ぎ、子路をして津を問わしむ。長沮曰く、「夫の輿を執る者は誰と為す。」子路曰く、「孔丘と為す。」曰く、「是れ魯の孔丘か。」曰く、「是なり。」曰く、「是れ津を知れり。」桀溺に問う。桀溺曰く、「子は誰と為す。」曰く、「仲由と為す。」曰く、「是れ魯の孔丘の徒か。」対えて曰く、「然り。」曰く、「滔滔たる者、天下皆是なり。而して誰と以にか之を易えん。且つ而其の人を辟くるの士に従わんよりは、豈に世を辟くるの士に従うに若かんや。」耰して輟めず。子路行きて以て告ぐ。夫子憮然として曰く、「鳥獣は与に群を同じくす可からず。吾斯の人の徒と与にするに非ずして誰と与にせん。天下に道有らば、丘は与に易えざるなり。」
-
『学問のすゝめ』十三編・怨望の人間に害あるを論ず・彼も一歩を退け我もまた一歩を退け元来人の性は交わりを好むものなれども、習慣によればかえってこれを嫌うに至るべし。世に変人奇物とて、ことさらに山村僻邑におり世の交際を避くる者あり。これを隠者と名づく。あるいは真の隠者にあらざるも、世間の付合いを好まずして一家に閉居し、俗塵を避くるなどとて得意の色をなす者なきにあらず。この輩の意を察するに、必ずしも政府の所置を嫌うのみにて身を退くるにあらず、その心志怯弱にして物に接するの勇なく、その度量狭小にして人を容るること能わず、人を容るること能わざれば人もまたこれを容れず、彼も一歩を退け我もまた一歩を退け、歩々相遠ざかりてついに異類の者のごとくなり、後には讐敵のごとくなりて、互いに怨望するに至ることあり。世の中に大なる禍と言うべし。
-
『呻吟語』外篇・品藻・此れ是れ大病痛山林の處士は常に一個の傲慢輕人の象を養ひ、常に一腹の痛憤不平の氣を積む。此れ是れ大病痛なり。