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学問のすゝめ / 十三編・怨望の人間に害あるを論ず・彼も一歩を退け我もまた一歩を退け

元来人の性は交わりを好むものなれども、習慣によればかえってこれを嫌うに至るべし。世に変人奇物とて、ことさらに山村僻邑におり世の交際を避くる者あり。これを隠者と名づく。あるいは真の隠者にあらざるも、世間の付合いを好まずして一家に閉居し、俗塵を避くるなどとて得意の色をなす者なきにあらず。この輩の意を察するに、必ずしも政府の所置を嫌うのみにて身を退くるにあらず、その心志怯弱にして物に接するの勇なく、その度量狭小にして人を容るること能わず、人を容るること能わざれば人もまたこれを容れず、彼も一歩を退け我もまた一歩を退け、歩々相遠ざかりてついに異類の者のごとくなり、後には讐敵のごとくなりて、互いに怨望するに至ることあり。世の中に大なる禍と言うべし。

書き下し

元来人の性は交わりを好むものなれども、習慣によればかえってこれを嫌うに至るべし。世に変人奇物とて、ことさらに山村僻邑におり世の交際を避くる者あり。これを隠者と名づく。あるいは真の隠者にあらざるも、世間の付合いを好まずして一家に閉居し、俗塵を避くるなどとて得意の色をなす者なきにあらず。この輩の意を察するに、必ずしも政府の所置を嫌うのみにて身を退くるにあらず、その心志怯弱にして物に接するの勇なく、その度量狭小にして人を容るること能わず、人を容るること能わざれば人もまたこれを容れず、彼も一歩を退け我もまた一歩を退け、歩々相遠ざかりてついに異類の者のごとくなり、後には讐敵のごとくなりて、互いに怨望するに至ることあり。世の中に大なる禍と言うべし。

現代語訳

もともと人の性質は交わりを好むものですが、習慣によってはかえってこれを嫌うようになります。世に変人や奇物といって、わざと山村や辺鄙な里にいて世の交わりを避ける者があります。これを隠者と名づけます。あるいは真の隠者でなくても、世間の付き合いを好まずに家に閉じこもり、俗塵を避けるなどと言って得意げな様子をする者がないではありません。この輩の心を察すると、必ずしも政府の処置を嫌って身を退けるのではなく、その心が弱くて物に接する勇気がなく、その度量が狭くて人を受け入れることができない。人を受け入れられなければ人もまたこれを受け入れず、彼も一歩退き自分も一歩退き、一歩ずつ遠ざかってついに別の種類の者のようになり、後には敵のようになって、互いに怨み合うに至ることがあります。世の中の大きな禍いと言うべきです。

解説

隠者の心理が分析されます。世を避けるのは高潔さではなく、接する勇気と受け入れる度量の不足だ、と。そして疎遠が敵意に変わる過程が丁寧に描かれます。受け入れられないから受け入れられず、互いに一歩ずつ退き、やがて別の種族のようになり、最後は敵になる。誰も攻撃していないのに敵ができる仕組みで、距離そのものが敵意を作ると示されています。

この章句が説くこと

隠者度量疎遠敵意距離

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