驢鞍橋 / 卷下
一日、去る者來て曰く、何某和尙は、道者と云はれ給ふか、又此頃は惡名世間に語り傳ふと云ふ。師聞て曰く、左も無くして、人に道者と貴はれたる咎遁れ難かるへし。天道是れを許さんや。夫れほど又世間に耻を曝らして、その報ひを返さで叶はす。或は機違ひ、或は死苦病苦强かるへし。總じて德無くして人に貴はるゝ程の咎なし。又曰く、天然と通力抔有り、奇特の業を作す性は、惡の性、化物性也。たとひ通有りとも、一惡をも斷替かする爲めにも成るへからす、心は人に易らすして人に貴はるゝこと、大なる咎也。
新字:一日、去る者来て曰く、何某和尚は、道者と云はれ給ふか、又此頃は悪名世間に語り伝ふと云ふ。師聞て曰く、左も無くして、人に道者と貴はれたる咎遁れ難かるへし。天道是れを許さんや。夫れほど又世間に耻を曝らして、その報ひを返さで叶はす。或は機違ひ、或は死苦病苦強かるへし。総じて徳無くして人に貴はるゝ程の咎なし。又曰く、天然と通力抔有り、奇特の業を作す性は、悪の性、化物性也。たとひ通有りとも、一悪をも断替かする為めにも成るへからす、心は人に易らすして人に貴はるゝこと、大なる咎也。
書き下し
一日、去る者来て曰く、何某和尚は、道者と云はれ給ふか、又此頃は悪名世間に語り伝ふと云ふ。師聞て曰く、左も無くして、人に道者と貴はれたる咎遁れ難かるへし。天道是れを許さんや。夫れほど又世間に耻を曝らして、その報ひを返さで叶はす。或は機違ひ、或は死苦病苦强かるへし。総じて徳無くして人に貴はるゝ程の咎なし。又曰く、天然と通力抔有り、奇特の業を作す性は、悪の性、化物性也。たとひ通有りとも、一悪をも断替かする為めにも成るへからす、心は人に易らすして人に貴はるゝこと、大なる咎也。
現代語訳
ある日、ある者が来て言った。某和尚は、道者と言われておられましたが、近ごろは悪い評判が世間に語り伝えられています、と言う。師は聞いて言われた。そうでもなくて、人に道者と尊ばれた咎は逃れがたいだろう。天道がこれを許そうか。それほどまた世間に恥をさらして、その報いを返さずにはいられない。あるいは気が違い、あるいは死の苦しみ、病の苦しみが強いだろう。おおよそ徳がないのに人に尊ばれるほどの咎はない。また言われた。生まれつき神通力などがあって、不思議な業をなす性分は、悪の性分、化け物の性分である。たとえ神通力があっても、一つの悪をも断ち替えるためにもならない。心は人と変わらないのに、人に尊ばれることは、大きな咎である。
解説

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