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驢鞍橋 / 卷下

その後當地に罷り下りし時、松平和泉殿へかく占ひ奉ると申しければ、和泉殿も扨て扨て機か付かなんだと肝を化し給ふ。その後又彼に至りければ、和泉殿曰く、此の程夜話の次に、去る道心者か、若君の御事加樣に占ひ奉ると御前へ申し上ければ、公方樣殊外御機嫌好く御座なされしと語り給ふと也。良有て曰く、其れに付ても、我命が惜く成うたり。此の君の佛法を御建立遊はさるゝを見て死度と也。

新字:その後当地に罷り下りし時、松平和泉殿へかく占ひ奉ると申しければ、和泉殿も扨て扨て機か付かなんだと肝を化し給ふ。その後又彼に至りければ、和泉殿曰く、此の程夜話の次に、去る道心者か、若君の御事加様に占ひ奉ると御前へ申し上ければ、公方様殊外御機嫌好く御座なされしと語り給ふと也。良有て曰く、其れに付ても、我命が惜く成うたり。此の君の仏法を御建立遊はさるゝを見て死度と也。

書き下し

その後当地に罷り下りし時、松平和泉殿へかく占ひ奉ると申しければ、和泉殿も扨て扨て機か付かなんだと肝を化し給ふ。その後又彼に至りければ、和泉殿曰く、此の程夜話の次に、去る道心者か、若君の御事加様に占ひ奉ると御前へ申し上ければ、公方様殊外御機嫌好く御座なされしと語り給ふと也。良有て曰く、其れに付ても、我命が惜く成うたり。此の君の仏法を御建立遊はさるゝを見て死度と也。

現代語訳

その後、こちらに下って来たとき、松平和泉殿に、このように占い申し上げたと申したところ、和泉殿も、さてさて気がつかなかった、と肝をつぶされた。その後またあちらに行ったところ、和泉殿が言われた。先ごろ夜話のついでに、ある道心者が若君のことをこのように占い申し上げたと御前へ申し上げたところ、公方様はことのほかご機嫌がよくていらっしゃった、と語られた、という。しばらくして言われた。それにつけても、私は命が惜しくなった。この君が仏法をご建立あそばされるのを見て死にたいものだ、と。

解説

家綱誕生の折の言葉を、正三が老中の松平和泉守に伝えると、和泉守は驚き、将軍家光に伝えたところ、家光はたいそう喜んだ、という後日談である。そして正三は、命が惜しくなった、この若君が仏法を興すのを見てから死にたい、と言う。死を恐れず、身体への執着を捨てよと説き続けた正三が、未来への希望のために命を惜しむ。願いのために生きたいという思いは、執着とは別の、人間らしい温かさを感じさせる。
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この章句が説くこと

徳川家光松平和泉守願い命希望仏法興隆

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