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驢鞍橋 / 卷下

一日、衆に示して曰く、我に無きことを云ひ聞かせて人に示めすべからす、大なる答也。機の位たでを云て、いかつげな振舞すべからす、必ず若き衆初心にして見せ、だてめさるゝな。自己を抜して口を扣き廻はるほどの咎なし。皆夢中ともに守る位有りや。大形晝も抜けかちなるべし。夫れ夢中に拔ぬと言ふは、先つ夢中に負けず、物ともせぬなり。又目明くときつと機がすわつて居る物也。作して心に覺えあるべし。是れ程のことさへなく、自己を拔かして有りながら、我にも無き佛法を云ひ廻はること、大なる咎也。必ず愼むべしと也。

新字:一日、衆に示して曰く、我に無きことを云ひ聞かせて人に示めすべからす、大なる答也。機の位たでを云て、いかつげな振舞すべからす、必ず若き衆初心にして見せ、だてめさるゝな。自己を抜して口を扣き廻はるほどの咎なし。皆夢中ともに守る位有りや。大形昼も抜けかちなるべし。夫れ夢中に抜ぬと言ふは、先つ夢中に負けず、物ともせぬなり。又目明くときつと機がすわつて居る物也。作して心に覚えあるべし。是れ程のことさへなく、自己を抜かして有りながら、我にも無き仏法を云ひ廻はること、大なる咎也。必ず慎むべしと也。

書き下し

一日、衆に示して曰く、我に無きことを云ひ聞かせて人に示めすべからす、大なる答也。機の位たでを云て、いかつげな振舞すべからす、必ず若き衆初心にして見せ、だてめさるゝな。自己を抜して口を扣き廻はるほどの咎なし。皆夢中ともに守る位有りや。大形昼も抜けかちなるべし。夫れ夢中に抜ぬと言ふは、先つ夢中に負けず、物ともせぬなり。又目明くときつと機がすわつて居る物也。作して心に覚えあるべし。是れ程のことさへなく、自己を抜かして有りながら、我にも無き仏法を云ひ廻はること、大なる咎也。必ず慎むべしと也。

現代語訳

ある日、衆に示して言われた。自分にないことを言い聞かせて人に示してはならない。大きな咎である。気迫の位を誇って言い、いかつい振る舞いをしてはならない。決して若い衆や初心の者に見せびらかして、伊達をしなさるな。自己を抜かして口を叩き回るほどの咎はない。誰も夢の中でも守る位があるか。たいていは昼でも抜けがちだろう。そもそも夢の中で抜けないというのは、まず夢の中に負けず、物ともしないことである。また目が覚めると、きっと気迫が据わっているものである。やってみれば心に覚えがあるだろう。これほどのことさえなく、自己を抜かしていながら、自分にもない仏法を言い回るのは、大きな咎である。必ず慎みなさい、と。

解説

自分に身についていないことを人に説いてはならない、と正三は戒める。気迫があるように見せて、いかつく振る舞い、若い人に見せびらかすのも厳禁だ、と。夢の中でも心が抜けないか、昼でさえ抜けがちではないか、と自らを点検させ、それもできないのに体得していない教えを語り回るのは大きな罪だ、と。人に教える立場、発信する立場の人が、言葉と実践の一致を自らに問うための厳しい戒めである。

この章句が説くこと

言行一致体得見せびらかし戒め教える立場自己点検

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