驢鞍橋 / 卷下
一日、衆に示して曰く、我に無きことを云ひ聞かせて人に示めすべからす、大なる答也。機の位たでを云て、いかつげな振舞すべからす、必ず若き衆初心にして見せ、だてめさるゝな。自己を抜して口を扣き廻はるほどの咎なし。皆夢中ともに守る位有りや。大形晝も抜けかちなるべし。夫れ夢中に拔ぬと言ふは、先つ夢中に負けず、物ともせぬなり。又目明くときつと機がすわつて居る物也。作して心に覺えあるべし。是れ程のことさへなく、自己を拔かして有りながら、我にも無き佛法を云ひ廻はること、大なる咎也。必ず愼むべしと也。
新字:一日、衆に示して曰く、我に無きことを云ひ聞かせて人に示めすべからす、大なる答也。機の位たでを云て、いかつげな振舞すべからす、必ず若き衆初心にして見せ、だてめさるゝな。自己を抜して口を扣き廻はるほどの咎なし。皆夢中ともに守る位有りや。大形昼も抜けかちなるべし。夫れ夢中に抜ぬと言ふは、先つ夢中に負けず、物ともせぬなり。又目明くときつと機がすわつて居る物也。作して心に覚えあるべし。是れ程のことさへなく、自己を抜かして有りながら、我にも無き仏法を云ひ廻はること、大なる咎也。必ず慎むべしと也。
書き下し
一日、衆に示して曰く、我に無きことを云ひ聞かせて人に示めすべからす、大なる答也。機の位たでを云て、いかつげな振舞すべからす、必ず若き衆初心にして見せ、だてめさるゝな。自己を抜して口を扣き廻はるほどの咎なし。皆夢中ともに守る位有りや。大形昼も抜けかちなるべし。夫れ夢中に抜ぬと言ふは、先つ夢中に負けず、物ともせぬなり。又目明くときつと機がすわつて居る物也。作して心に覚えあるべし。是れ程のことさへなく、自己を抜かして有りながら、我にも無き仏法を云ひ廻はること、大なる咎也。必ず慎むべしと也。
現代語訳
ある日、衆に示して言われた。自分にないことを言い聞かせて人に示してはならない。大きな咎である。気迫の位を誇って言い、いかつい振る舞いをしてはならない。決して若い衆や初心の者に見せびらかして、伊達をしなさるな。自己を抜かして口を叩き回るほどの咎はない。誰も夢の中でも守る位があるか。たいていは昼でも抜けがちだろう。そもそも夢の中で抜けないというのは、まず夢の中に負けず、物ともしないことである。また目が覚めると、きっと気迫が据わっているものである。やってみれば心に覚えがあるだろう。これほどのことさえなく、自己を抜かしていながら、自分にもない仏法を言い回るのは、大きな咎である。必ず慎みなさい、と。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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荀子・大略篇自ら其の行ひに嗛(あきた)らざる者は、言濫(らん)に過ぐ。古の賢人は、賤しくして布衣(ほい)為(た)り、貧しくして匹夫為り。食へば則ち饘粥(せんしゅく)も足らず、衣れば則ち豎褐(じゅかつ)も完(まった)からず。然り而して礼に非ざれば進まず、義に非ざれば受けず。安(いづ)くんぞ此れを取らん。
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論語・憲問篇子曰わく、君子はその言にして行に過ぐるを恥ず。
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論語・子路篇子貢問いて曰く、「何如なれば斯れ之を士と謂う可き。」子曰く、「己を行うに恥有り、四方に使いして、君命を辱めざる、士と謂う可し。」曰く、「敢えて其の次を問う。」曰く、「宗族孝を称し、郷党弟を称す。」曰く、「敢えて其の次を問う。」曰く、「言必ず信、行必ず果、硜硜然たる小人なるかな。抑々亦た以て次と為す可し。」曰く、「今の政に従う者は何如。」子曰く、「噫、斗筲の人、何ぞ算うるに足らんや。」
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論語・里仁篇子曰わく、古者は言を出さざるは、躬の逮ばざるを恥ずればなり。
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論語・憲問篇子曰わく、その言の怍(はじ)ざるは、これを為すこと難し。
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呉子・図国篇呉起、儒服にして兵機を以て魏の文侯に見ゆ。文侯曰く、「寡人は軍旅の事を好まず」と。起曰く、「臣は見るるところを以て隠れたるを占い、往きしを以て来たるを察す。主君何ぞ言と心と違うことを言わるるや。今、君は四時に人をして皮革を斬り離たしめ、掩うに朱漆を以てし、画くに丹青を以てし、爍かすに犀象を以てす。冬日に之を衣れば則ち温かならず、夏日に之を衣れば則ち涼しからず。長戟は二丈四尺、短戟は一丈二尺を為る。革車は戸を奄い、輪を縵にし轂を籠む。之を目に観れば則ち麗しからず、之に乗りて以て田すれば則ち軽からず。識らず、主君安んぞ此を用いんや。若し以て進みて戦い退きて守るに備うるも、能く用うる者を求めざれば、譬えば猶お伏鶏の狸を搏ち、乳犬の虎を犯すがごとし。闘心有りと雖も、之に随いて死せんのみ。昔、承桑氏の君は、徳を修めて武を廃し、以て其の国を滅ぼせり。有扈氏の君は、衆を恃み勇を好み、以て其の社稷を喪えり。明主は茲に鑒み、必ず内には文徳を修め、外には武備を治む。故に敵に当たりて進まざるは、義に逮ぶこと無きなり。僵屍して之を哀しむは、仁に逮ぶこと無きなり」と。是に於いて文侯は身自ら席を布き、夫人は觴を捧げ、呉起を廟に醮し、立てて大将と為し、西河を守らしむ。諸侯と大いに戦うこと七十六、全勝六十四、余は則ち鈞しく解く。土を四面に闢き、地を拓くこと千里なるは、皆な起の功なり。