列子 / 説符篇
宋人有游於道、得人遺契者、歸而藏之、密數其齒、告鄰人曰:「吾富可待矣。」
新字:宋人有游於道、得人遺契者、帰而蔵之、密数其齒、告鄰人曰:「吾富可待矣。」
書き下し
宋人に道に游びて、人の遺せる契を得る者有り。歸りて之を藏し、密かに其の齒を數え、鄰人に告げて曰く、吾が富待つべし、と。
現代語訳
宋の人で、道を歩いていて、人が落とした割り符を拾った者がいた。持ち帰ってしまい込み、こっそりその刻み目を数えて、隣の人に言った。「私の富はもうすぐだ」。
解説
割り符は、貸し借りを証明する二枚一組の札です。片方だけ持っていても、何の権利も生みません。それを拾った男は、刻み目の数を数えて富が来ると思った。数字が大きいほど嬉しくなる心理が、正確に描かれています。実務でこれに当たるのは、根拠のない見込み数字を積み上げる場面です。見込み客の数、資料請求の件数、面談の回数。どれも数えられますが、対になる相手側の合意がなければ、割り符の片方にすぎません。しかも数えているあいだは、確かに増えていく。三十六字で、この心理が言い当てられています。
この章句が説くこと
人の遺せる契を得る密かに其の齒を数う吾が富待つべし
関連する章句
-
『列子』説符篇昔齊人に金を欲する者有り。清旦に衣冠して市に之く。鬻金者の所に適き、因りて其の金を攫みて去る。吏捕らえて之を得たり。問いて曰く、人皆な焉に在り。子人の金を攫むは何ぞや、と。對えて曰く、金を取るの時、人を見ず、徒だ金を見るのみ、と。
-
『列子』説符篇人に鈇を亡う者有り。其の鄰の子を意う。其の行步を視るに、鈇を竊めるなり。顏色も、鈇を竊めるなり。言語も、鈇を竊めるなり。動作態度、爲すとして鈇を竊まざるは無きなり。俄かにして其の谷を抇りて其の鈇を得たり。他日復た其の鄰人の子を見るに、動作態度に鈇を竊める者に似たる無し。
-
『列子』説符篇楊朱曰く、利を出す者は實及び、怨みを往らす者は害來たる。此に發して外に應ずる者は唯だ請のみ。是の故に賢者は出す所を慎む、と。
-
『列子』説符篇宋人に其の君の爲に玉を以て楮の葉を爲る者有り。三年にして成る。鋒殺莖柯、毫芒繁澤、之を楮の葉の中に亂すも別つべからざるなり。此の人遂に巧を以て宋國に食む。子列子之を聞きて曰く、天地の物を生ずるをして、三年にして一葉を成さしめば、則ち物の葉有る者寡なからん。故に聖人は道化を恃みて智巧を恃まず、と。
-
『列子』天瑞篇齊の國氏は大いに富み、宋の向氏は大いに貧し。宋より齊に之き、其の術を請う。國氏之に告げて曰く、吾は善く盜を爲す。始め吾盜を爲すや、一年にして給し、二年にして足り、三年にして大いに穰なり。此れより往、施して州閭に及ぶ、と。向氏大いに喜ぶ。其の盜を爲すの言を喩りて、其の盜を爲すの道を喩らず。遂に垣を踰え室を鑿ち、手目の及ぶ所、探らざる亡し。未だ時に及ばずして、贓を以て罪を獲、其の先に居る所の財を沒せらる。
-
『列子』説符篇白公勝亂を慮り、朝を罷めて立つ。杖策を倒にし、錣上りて頤を貫く。血流れて地に至るも知らざるなり。鄭人之を聞きて曰く、頤すら之れ忘る。將た何をか忘れざらんや、と。意の屬著する所あれば、其の行くや足は株埳に躓き、頭は植木に抵るとも、自ら知らざるなり。