列子 / 湯問篇
來丹之友申他曰:「子怨黑卵至矣、黑卵之易子過矣、將奚謀焉?」來丹垂涕曰:「願子爲我謀。」申他曰:「吾聞衛孔周其祖得殷帝之寶劍、一童子服之、卻三軍之衆、奚不請焉?」來丹遂適衛、見孔周、執僕御之禮、請先納妻子、後言所欲。
新字:来丹之友申他曰:「子怨黒卵至矣、黒卵之易子過矣、将奚謀焉?」来丹垂涕曰:「願子為我謀。」申他曰:「吾聞衛孔周其祖得殷帝之宝剣、一童子服之、却三軍之衆、奚不請焉?」来丹遂適衛、見孔周、執僕御之礼、請先納妻子、後言所欲。
書き下し
來丹の友申他曰く、子の黑卵を怨むこと至れり。黑卵の子を易んずること過ぎたり。將た奚をか謀らんや、と。來丹涕を垂れて曰く、願わくは子我が爲に謀れ、と。申他曰く、吾聞く、衛の孔周は其の祖殷帝の寶劍を得たり、一童子之を服せば、三軍の衆を卻く、と。奚ぞ焉に請わざる、と。來丹遂に衛に適き、孔周に見え、僕御の禮を執り、先ず妻子を納れ、後に欲する所を言わんことを請う。
現代語訳
来丹の友の申他が言った。「あなたが黒卵を恨む気持ちは極まっている。黒卵があなたを見くびるのも度を越している。いったいどうするつもりか」。来丹は涙を流して言った。「どうか私のために策を考えてほしい」。申他は言った。「私はこう聞いている。衛の孔周は、その祖先が殷の帝の宝剣を得た。子どもがそれを帯びれば、三軍の兵を退けるという。どうしてそれを頼まないのか」。来丹はそこで衛へ行き、孔周に会って、御者のように仕える礼をとり、まず妻子を差し出し、そのあとで望みを述べたいと願い出た。
解説
友の申他がしたことは、二つです。まず現状を言葉にした。あなたの恨みは極まり、相手の侮りも度を越している、と。次に、具体的な手を示した。孔周の宝剣を頼め、と。共感で終わらせず、選択肢を出している。そして来丹の行動が徹底しています。衛へ行き、御者のように仕える礼をとり、先に妻子を人質として差し出してから、望みを言った。頼み方の順序が逆です。ふつうは望みを言ってから条件を出す。彼は代価を先に置いた。人の力を借りるのを恥じていた男が、いざ借りると決めたら、これほど徹底する。切り替えの潔さがこの人物の値打ちです。
この章句が説くこと
子の黒卵を怨むこと至れり一童子之を服せば三軍の衆を却く僕御の礼を執り先ず妻子を納る
関連する章句
-
『列子』湯問篇來丹曰く、然りと雖も、吾は必ず其の下なる者を請わん、と。孔周乃ち其の妻子を歸し、與に齋すること七日。晏陰の間、跪きて其の下劍を授く。來丹再拜して之を受けて以て歸る。來丹遂に劍を執りて黑卵に從う。時に黑卵の醉いて牖下に偃す。頸より腰に至るまで三たび之を斬るも、黑卵覺えず。來丹黑卵の死せるを以て、趣りて退く。黑卵の子に門に遇い、之を擊つこと三下、虛に投ずるが如し。黑卵の子方に笑いて曰く、汝何ぞ蚩かにして三たび予を招くか、と。來丹劍の人を殺す能わざるを知り、歎じて歸る。黑卵既に醒め、其の妻を怒りて曰く、醉いて我を露わにし、我をして嗌疾ましめ腰急ならしむ、と。其の子曰く、疇昔來丹の來たるや、我に門に遇い、三たび我を招く。亦た我をして體疾ましめ支彊ならしむ。彼其れ我を厭うか、と。
-
『列子』湯問篇魏の黑卵暱嫌を以て丘邴章を殺す。丘邴章の子來丹、父の讐に報いんことを謀る。丹は氣甚だ猛なるも、形は甚だ露わなり。粒を計りて食らい、風に順いて趨る。怒ると雖も、兵を稱げて以て之に報ゆる能わず。力を人に假るを恥じ、手ずから劍して以て黑卵を屠らんことを誓う。黑卵は悍志衆に絕え、力は百夫に抗す。節骨皮肉は、人類に非ざるなり。頸を延べて刀を承け、胸を披きて矢を受くるも、鋩鍔摧け屈して、體に痕撻無し。其の材力を負み、來丹を視ること猶お雛鷇のごときなり。
-
『列子』湯問篇孔周曰く、吾に三劍有り。唯だ子の擇ぶ所なり。皆な人を殺す能わず。且く先ず其の狀を言わん。一に含光と曰う。之を視るも見るべからず、之を運らすも有るを知らず。其の觸るる所や、泯然として際無く、物を經るも物覺えず。二に承影と曰う。將に旦ならんとする昧爽の交、日夕昏明の際、北面して之を察すれば、淡淡焉として物の存する有るが若く、其の狀を識る莫し。其の觸るる所や、竊竊然として聲有り、物を經るも物疾まざるなり。三に宵練と曰う。方に晝なれば則ち影を見て光を見ず、方に夜なれば光を見て形を見ず。其の物に觸るるや、騞然として過ぎ、過ぐるに隨いて隨いて合し、疾みを覺ゆるも刃に血あらず。此の三寶なる者は、之を傳うること十三世なり。而して事に施す無し。匣にして之を藏し、未だ嘗て封を啓かず、と。
-
『列子』力命篇管夷吾・鮑叔牙の二人相い友として甚だ戚し。同に齊に處る。管夷吾は公子糾に事え、鮑叔牙は公子小白に事う。齊の公族に寵多く、嫡庶並び行われ、國人亂を懼る。管仲は召忽と公子糾を奉じて魯に奔り、鮑叔は公子小白を奉じて莒に奔る。既にして公孫無知亂を作し、齊に君無く、二公子入るを爭う。管夷吾小白と莒に戰い、道に射て小白の帶鉤に中つ。小白既に立ち、魯を脅して子糾を殺さしむ。召忽之に死し、管夷吾は囚わる。
-
『列子』黄帝篇伯昏瞀人曰く、善いかな觀るや。汝己に處らば、人將に汝を保らんとす、と。幾何も無くして往けば、則ち戶外の屨滿てり。伯昏瞀人北面して立ち、杖を敦てて之を頤に蹙む。立つこと閒有りて、言わずして出づ。賓者以て列子に告ぐ。列子履を提げ徒跣にして走り、門に暨びて問いて曰く、先生既に來たり、曾て藥を廢てざるか、と。曰く、已めよ。吾固より汝に告げて曰えり、人將に汝を保らんとす、と。果たして汝を保れり。汝の能く人をして汝を保らしむるに非ずして、汝の能く人をして汝を保ること無からしめざるなり。而ち焉んぞ之を感ずるを用いん。感ずれば豫め異を出だす。且つ必ず感ずること有らば、而の本身を搖るがす。又た謂う無きなり。汝と遊ぶ者は、汝に告ぐる莫し。彼の小言する所は、盡く人の毒なり。覺る莫く悟る莫し。何ぞ相い孰せんや、と。
-
『列子』湯問篇周の穆王大いに西戎を征す。西戎錕鋙の劍、火浣の布を獻ず。其の劍は長さ尺有咫、練鋼にして赤刃なり。之を用いて玉を切ること泥を切るが如し。火浣の布は、之を浣うに必ず火に投ず。布は則ち火の色、垢は則ち布の色なり。火を出でて之を振るえば、皓然として雪かと疑う。皇子以爲えらく此の物無し、之を傳うる者は妄なりと。蕭叔曰く、皇子は自ら信ずるに果にして、理を誣うるに果なるかな、と。