列子 / 湯問篇
魏黑卵以暱嫌殺丘邴章、丘邴章之子來丹謀報父之讐。丹氣甚猛、形甚露、計粒而食、順風而趨。雖怒、不能稱兵以報之。恥假力於人、誓手劍以屠黑卵。黑卵悍志絕衆、力抗百夫、節骨皮肉、非人類也、延頸承刀、披胸受矢、鋩鍔摧屈、而體無痕撻。負其材力、視來丹猶雛鷇也。
新字:魏黒卵以暱嫌殺丘邴章、丘邴章之子来丹謀報父之讐。丹気甚猛、形甚露、計粒而食、順風而趨。雖怒、不能称兵以報之。恥仮力於人、誓手剣以屠黒卵。黒卵悍志絶衆、力抗百夫、節骨皮肉、非人類也、延頸承刀、披胸受矢、鋩鍔摧屈、而体無痕撻。負其材力、視来丹猶雛鷇也。
書き下し
魏の黑卵暱嫌を以て丘邴章を殺す。丘邴章の子來丹、父の讐に報いんことを謀る。丹は氣甚だ猛なるも、形は甚だ露わなり。粒を計りて食らい、風に順いて趨る。怒ると雖も、兵を稱げて以て之に報ゆる能わず。力を人に假るを恥じ、手ずから劍して以て黑卵を屠らんことを誓う。黑卵は悍志衆に絕え、力は百夫に抗す。節骨皮肉は、人類に非ざるなり。頸を延べて刀を承け、胸を披きて矢を受くるも、鋩鍔摧け屈して、體に痕撻無し。其の材力を負み、來丹を視ること猶お雛鷇のごときなり。
現代語訳
魏の黒卵が、個人的な恨みから丘邴章を殺した。丘邴章の子である来丹は、父の仇を討とうと謀った。来丹は気性はたいそう激しいが、体つきはひどく貧弱である。米粒を数えて食べるほど食が細く、風に押されて走るような有様だ。怒っても、武器を持って報復することができない。人の力を借りるのを恥じ、自分の手で剣をふるって黒卵を斬ると誓った。黒卵は勇猛さが人並みはずれ、力は百人に匹敵する。関節も骨も皮も肉も、人間のものではない。首を伸ばして刀を受け、胸を開いて矢を受けても、刃先のほうが砕けて曲がり、体に傷ひとつ残らない。その素質と力を頼みにして、来丹のことを雛鳥ほどにしか見ていなかった。
解説
復讐する側が絶望的に非力で、される側が刃も通らない怪物。しかも来丹は「人の力を借りるのを恥じ」て、自分の手でやると誓っています。ここが引っかかりどころです。目的は父の仇を討つことなのに、自分の手でやるという条件を自分で追加している。目的と手段の順序が入れ替わっています。実務でも似たことが起きます。目標を達成することより、自分の手でやり遂げることを優先してしまう。人に頼ることを恥と考えた瞬間に、達成できる範囲は自分の力の範囲に縮みます。この話では、友人が現れてその縛りを外します。
この章句が説くこと
力を人に仮るを恥ず手ずから剣して黒卵を屠らんことを誓う来丹を視ること猶お雛鷇のごとし
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