列子 / 黄帝篇
禾生、子伯、范氏之上客、出行、經坰外、宿於田更商丘開之舍。中夜、禾生、子伯二人相與言子華之名勢、能使存者亡、亡者存、富者貧、貧者富。商丘開先窘於飢寒、潛於牖北聽之。因假糧荷畚之子華之門。子華之門徒皆世族也、縞衣乘軒、緩步闊視。顧見商丘開年老力弱、面目黎黑、衣冠不檢、莫不眲之。既而狎侮欺詒、攩㧙挨抌、亡所不爲。商丘開常無慍容、而諸客之技單、憊於戲笑。
新字:禾生、子伯、范氏之上客、出行、経坰外、宿於田更商丘開之舎。中夜、禾生、子伯二人相与言子華之名勢、能使存者亡、亡者存、富者貧、貧者富。商丘開先窘於飢寒、潜於牖北聴之。因仮糧荷畚之子華之門。子華之門徒皆世族也、縞衣乗軒、緩歩闊視。顧見商丘開年老力弱、面目黎黒、衣冠不検、莫不眲之。既而狎侮欺詒、攩㧙挨抌、亡所不為。商丘開常無慍容、而諸客之技単、憊於戯笑。
書き下し
禾生・子伯は范氏の上客なり。出行して坰外を經、田更商丘開の舍に宿る。中夜、禾生・子伯二人相い與に子華の名勢を言う、能く存する者をして亡ぼさしめ、亡ぶる者をして存せしめ、富める者をして貧しからしめ、貧しき者をして富ましむ、と。商丘開先に飢寒に窘しみ、牖の北に潛みて之を聽く。因りて糧を假り畚を荷いて子華の門に之く。子華の門徒は皆な世族なり。縞衣にして軒に乘り、緩步して闊視す。顧みて商丘開の年老い力弱く、面目黎黑にして、衣冠檢べざるを見、之を眲まざる莫し。既にして狎侮欺詒し、攩㧙挨抌して、爲さざる所亡し。商丘開常に慍れる容無く、而して諸客の技單き、戲笑に憊る。
現代語訳
禾生と子伯は范氏の上客であった。旅の途中で郊外を通り、田を耕す商丘開の家に泊まった。夜中に禾生と子伯の二人が語り合った。子華の名声と勢いはたいしたもので、生きている者を滅ぼすことも、滅びかけた者を生かすことも、富んだ者を貧しくすることも、貧しい者を富ませることもできる、と。商丘開はかねて飢えと寒さに苦しんでいたので、北の窓の下に身を潜めてこれを聞いた。そこで食糧を借り、もっこを担いで子華の門を訪ねた。子華の門下はみな名門の子弟である。白絹の衣を着て高い車に乗り、ゆったり歩いて尊大に見回す。彼らは商丘開が年老いて力なく、顔は黒ずみ、身なりも整っていないのを見て、誰もが横目でさげすんだ。やがて馴れ馴れしく侮り、だまし、押しのけ、突き飛ばし、しないことがなかった。商丘開はいつも怒った顔を見せない。そのうち食客たちのほうが手を尽くし、からかうのに疲れてしまった。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『列子』黄帝篇遂に商丘開と俱に高臺に乘り、衆中に於いて漫りに言いて曰く、能く自ら投じ下る者有らば百金を賞せん、と。衆皆な競いて應ず。商丘開以て信ならんと爲し、遂に先んじて投じ下る。形は飛鳥の若く、地に揚がり、𩨒骨䃣るる無し。范氏の黨以爲えらく偶然ならんと、未だ詎ぞ怪しまざるなり。因りて復た河曲の淫隈を指して曰く、彼の中に寶珠有り、泳げば得べきなり、と。商丘開復た從いて之に泳ぐ。既に出でて、果たして珠を得たり。衆昉めて同じく疑う。子華昉めて肉食衣帛の次に豫らしむ。俄かにして范氏の藏大いに火あり。子華曰く、若能く火に入りて錦を取らば、得る所の多少に從いて若を賞せん、と。商丘開往きて難色無し。火に入りて往還するも、埃も漫れず、身も焦げず。范氏の黨以て道有りと爲し、乃ち共に之に謝して曰く、吾子の道有るを知らずして子を誕き、吾子の神人たるを知らずして子を辱めたり。子其れ我を愚とし、子其れ我を聾とし、子其れ我を盲とせん。敢えて其の道を問う、と。
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『列子』黄帝篇范氏に子有り子華と曰う。善く私名を養い、國を舉げて之に服す。晉君に寵有り、仕えずして三卿の右に居る。目の偏視する所、晉國之に爵し、口の偏肥する所、晉國之を黜く。其の庭に游ぶ者は朝に侔し。子華其の俠客をして智鄙を以て相い攻め、彊弱相い凌がしむ。前に傷破すと雖も、意に介するを用いず。終日夜此を以て戲樂と爲し、國殆ど俗を成せり。
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『列子』黄帝篇商丘開曰く、吾に道亡し。吾の心と雖も、亦た以う所を知らず。然りと雖も、一つ此に有り、試みに子と之を言わん。曩に子の二客の吾が舍に宿るや、范氏の勢を譽むるを聞けり、能く存する者をして亡ぼさしめ、亡ぶる者をして存せしめ、富める者をして貧しからしめ、貧しき者をして富ましむ、と。吾之を誠として二心無し。故に遠しとせずして來れり。來るに及び、子の黨の言は皆な實なりと以い、唯だ之を誠とするの至らざらんこと、之を行うの及ばざらんことを恐る。形體の措く所、利害の存する所を知らざるなり。心一なるのみ。物の迕う者亡きこと、斯くの如きのみ。今昉めて子の黨の我を誕くを知る。我内に猜慮を藏し、外に觀聽を矜り、昔日の焦溺せざりしを追いて幸いとす。怛然として内熱し、惕然として震悸す。水火豈に復た近づくべけんや、と。
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『列子』黄帝篇此れより後、范氏の門徒、路に乞兒馬醫に遇うも、敢えて辱めざるなり。必ず車を下りて之に揖す。宰我之を聞き、以て仲尼に告ぐ。仲尼曰く、汝知らざるか。夫れ至信の人は、以て物を感ぜしむべきなり。天地を動かし、鬼神を感ぜしめ、六合に橫たわりて、逆らう者無し。豈に但だ危險を履み、水火に入るのみならんや。商丘開は僞物を信じて猶お逆らわず。況んや彼我皆な誠なるをや。小子之を識せ、と。
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『列子』説符篇子列子窮し、容貌に饑色有り。客に之を鄭の子陽に言う者有りて曰く、列禦寇は蓋し有道の士なり。君の國に居りて窮す。君乃ち士を好まずと爲すこと無からんや、と。鄭の子陽即ち官をして之に粟を遺らしむ。子列子出でて使者に見え、再拜して辭す。使者去る。子列子入るに、其の妻之を望みて心を拊ちて曰く、妾聞く、有道者の妻子と爲れば皆な佚樂を得と。今饑色有り、君過ちて先生に食を遺る。先生受けず。豈に命ならざらんや、と。子列子笑いて之に謂いて曰く、君は自ら我を知るに非ざるなり。人の言を以て我に粟を遺る。其の我を罪するに至るや、又た且つ人の言を以てせん。此れ吾の受けざる所以なり、と。其の卒、民果たして難を作して子陽を殺す。
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荘子・譲王子列子窮す。容貌に飢色有り。客に之を鄭の子陽(しよう)に言う者有りて曰く、「列御寇は、蓋(けだ)し有道の士なり。君の国に居りて窮す。君乃ち士を好まずと為すこと無からんや」と。鄭の子陽即ち官に令して之に粟を遺(おく)らしむ。子列子使者を見て、再拝して辞す。使者去る。子列子入る。其の妻之を望みて心を拊(う)ちて曰く、「妾聞く、有道者の妻子と為れば、皆な佚楽(いつらく)を得と。今、飢色有り。君過(あやま)ちて先生に食を遺る。先生受けず。豈に命ならずや」と。子列子笑いて之に謂いて曰く、「君は自ら我を知るに非ざるなり。人の言を以て我に粟を遺る。其の我を罪するに至るや、又た且つ人の言を以てせん。此れ吾の受けざる所以なり」と。其の卒(つい)に、民果たして難を作(な)して子陽を殺す。