列子 / 黄帝篇
晝寢而夢、遊於華胥氏之國。華胥氏之國在弇州之西、台州之北、不知斯齊國幾千萬里、蓋非舟車足力之所及、神游而已。其國無師長、自然而已。其民無嗜慾、自然而已。不知樂生、不知惡死、故無夭殤、不知親己、不知疏物、故無愛憎、不知背逆、不知向順、故無利害、都無所愛惜、都無所畏忌。入水不溺、入火不熱。斫撻無傷痛、指擿無痟癢。乘空如履實、寢虛若處牀。雲霧不硋其視、雷霆不亂其聽、美惡不滑其心、山谷不躓其步、神行而已。
新字:昼寝而夢、遊於華胥氏之国。華胥氏之国在弇州之西、台州之北、不知斯斉国幾千万里、蓋非舟車足力之所及、神游而已。其国無師長、自然而已。其民無嗜慾、自然而已。不知楽生、不知悪死、故無夭殤、不知親己、不知疏物、故無愛憎、不知背逆、不知向順、故無利害、都無所愛惜、都無所畏忌。入水不溺、入火不熱。斫撻無傷痛、指擿無痟癢。乗空如履実、寝虚若処牀。雲霧不硋其視、雷霆不乱其聴、美悪不滑其心、山谷不躓其歩、神行而已。
書き下し
晝寢ねて夢み、華胥氏の國に遊ぶ。華胥氏の國は弇州の西、台州の北に在り。斯の齊國を去ること幾千萬里なるかを知らず。蓋し舟車足力の及ぶ所に非ず、神游のみ。其の國に師長無く、自然なるのみ。其の民に嗜慾無く、自然なるのみ。生を樂しむを知らず、死を惡むを知らず、故に夭殤無し。己に親しむを知らず、物を疏んずるを知らず、故に愛憎無し。背逆を知らず、向順を知らず、故に利害無し。都て愛惜する所無く、都て畏忌する所無し。水に入るも溺れず、火に入るも熱からず。斫撻するも傷痛無く、指擿するも痟癢無し。空に乘ること實を履むが如く、虛に寢ぬること牀に處るが若し。雲霧も其の視るを硋げず、雷霆も其の聽くを亂さず、美惡も其の心を滑さず、山谷も其の步みを躓かせず、神行するのみ。
現代語訳
昼寝をして夢を見た。華胥氏の国に遊んだのである。華胥氏の国は弇州の西、台州の北にあり、この斉の国から何千万里離れているのか分からない。舟や車や足で行ける場所ではなく、心だけが行けるところだ。その国には師も長もおらず、ただ自然であるだけ。その民には好みも欲もなく、ただ自然であるだけ。生きることを楽しいとも思わず、死ぬことを嫌だとも思わない。だから若死にというものがない。自分を親しいとも思わず、他人を疎いとも思わない。だから愛憎がない。逆らうことも従うことも知らない。だから利害がない。惜しむものが何もなく、恐れるものが何もない。水に入っても溺れず、火に入っても熱くない。斬られ打たれても痛みがなく、指で突かれてもかゆくない。空を歩くのが地を踏むようで、何もないところに寝るのが寝台にいるようだ。雲や霧もその目をさえぎらず、雷もその耳を乱さず、美醜もその心を惑わさず、山や谷もその足をつまずかせない。ただ心のままに行くだけである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『列子』黄帝篇黄帝既に寤め、怡然として自得し、天老・力牧・太山稽を召し、之に告げて曰く、朕閒居すること三月、心を齋し形を服し、身を養い物を治むるの道有らんことを思うも、其の術を獲ず。疲れて睡り、夢む所此くの若し。今至道は情を以て求むべからざるを知れり。朕之を知れり、朕之を得たり。而れども以て若に告ぐる能わず、と。又た二十有八年、天下大いに治まり、幾ど華胥氏の國の若し。而して帝登假す。百姓之を號すること、二百餘年輟まず。
-
『列子』黄帝篇列姑射山は海河の洲中に在り。山上に神人有り。風を吸い露を飲み、五穀を食らわず。心は淵泉の如く、形は處女の如し。偎まず愛せずして、仙聖之が臣と爲り、畏れず怒らずして、愿慤之が使と爲り、施さず惠まずして、物おのずから足り、聚めず歛めずして、己に愆ち無し。陰陽常に調い、日月常に明らかに、四時常に若く、風雨常に均しく、字育常に時あり、年穀常に豐かにして、土に札傷無く、人に夭惡無く、物に疵厲無く、鬼に靈響無し。
-
『列子』周穆王篇子列子曰く、神の遇うを夢と爲し、形の接するを事と爲す。故に晝に想い夜に夢むるは、神形の遇う所なり。故に神凝る者は想夢自ら消ゆ。覺を信ずる者は語らず、夢を信ずる者は達せず、物化の往來する者なり。古の真人は、其の覺むるや自ら忘れ、其の寢ぬるや夢みず、と。幾ぞ虛語ならんや。
-
『列子』湯問篇土氣和して、札厲亡し。人性は婉やかにして物に從い、競わず爭わず。心柔らかにして骨弱く、驕らず忌まず。長幼儕しく居り、君ならず臣ならず。男女雜り游び、媒せず聘せず。水に緣りて居り、耕さず稼えず。土氣溫適にして、織らず衣ず。百年にして死し、夭からず病まず。其の民孳阜して數亡く、喜樂有りて、衰老哀苦亡し。其の俗は聲を好み、相い攜えて迭いに謠い、終日音を輟めず。飢え惓めば則ち神瀵を飲み、力志和平なり。過ぐれば則ち醉い、旬を經て乃ち醒む。神瀵に沐浴すれば、膚色は脂澤し、香氣は旬を經て乃ち歇む。
-
『列子』黄帝篇魏の文侯之を聞き、子夏に問いて曰く、彼は何人ぞや、と。子夏曰く、商の夫子に聞く所を以てすれば、和なる者は大いに物に同じ、物の傷閡するを得る者無し。金石に游び、水火を蹈むこと、皆な可なり、と。文侯曰く、吾子は奚ぞ之を爲さざる、と。子夏曰く、心を刳り智を去ること、商未だ之を能くせず。然りと雖も、試みに之を語るに暇有り、と。文侯曰く、夫子は奚ぞ之を爲さざる、と。子夏曰く、夫子は之を能くして能く爲さざる者なり、と。文侯大いに說ぶ。
-
『列子』周穆王篇一體の盈虛消息は、皆な天地に通じ、物類に應ず。故に陰氣壯んなれば、則ち大水を涉りて恐懼するを夢み、陽氣壯んなれば、則ち大火を涉りて燔焫するを夢み、陰陽俱に壯んなれば、則ち生殺を夢む。甚だ飽けば則ち與うるを夢み、甚だ饑うれば則ち取るを夢む。是を以て浮虛を以て疾と爲す者は、則ち揚がるを夢み、沈實を以て疾と爲す者は、則ち溺るるを夢む。帶を藉きて寢ぬれば則ち蛇を夢み、飛鳥髮を銜めば則ち飛ぶを夢む。將に陰らんとすれば火を夢み、將に疾まんとすれば食を夢む。酒を飲む者は憂え、歌い儛う者は哭す。