二宮翁夜話 / 続篇
或曰く、某は借も千円なり、貸も千円なり、如何為して然るべきや。翁曰、是誠に面白き事なり。汝が借り方に向て言ふ心を以て、貸方にいひ、汝が貸し方に向て言ふ心を以て、借り方に向つて談判すべし。然せば両全なるべし。
書き下し
或(あるひと)曰く、某(それがし)は借(かり)も千円なり、貸(かし)も千円なり、如何為(いかにな)して然(しか)るべきや。翁(おきな)曰(いわ)く、是(これ)誠に面白き事なり。汝(なんじ)が借り方に向て言ふ心を以て、貸方(かしかた)にいひ、汝が貸し方に向て言ふ心を以て、借り方に向つて談判すべし。然(しか)せば両全(りょうぜん)なるべし。
現代語訳
ある人が言った。「私は借金も千円、貸している金も千円あります。どうすればよいでしょうか」。翁(二宮尊徳)が言われた。「それは実に面白いことだ。お前が借りている相手に向かって言いたい心をもって、貸している相手に言い、貸している相手に向かって言いたい心をもって、借りている相手と談判しなさい。そうすれば双方うまくいくだろう」。
解説
借金と貸金が同額で板挟みになった人への、尊徳の機知に富んだ助言です。人は借りた相手には「もう少し待ってほしい」と下手に出て頼み、貸した相手には「早く返せ」と強く迫りがちです。尊徳は、その心を入れ替えよと説きます。借り手に対しては、自分が貸し手に頼みたいと思うのと同じ寛容な心で接し、貸し手に対しては、自分が借り手に迫りたいと思うのと同じ誠実な心で返済に臨む。立場を入れ替えて相手の身になる「恕」の実践であり、双方が円満に収まる知恵です。自分の都合で態度を変えず、相手の立場に立って考える――債務に限らず現代の交渉や人付き合いにも通じる示唆に富んだ一条です。
この章句が説くこと
二宮翁夜話報徳恕立場を換える貸借誠実
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