南洲翁遺訓 / 第二条
賢人百官を総べ、政権一途に帰し、一格の国体定制無ければ縦令人材を登用し、言路を開き、衆説を容るるとも、取捨方向無く、事業雑駁にして成功有るべからず。昨日出でし命令の、今日忽ち引き易ふると云ふ様なるも、皆統轄する所一ならずして、施政の方針一定せざるの致す所也。
書き下し
賢人百官を総べ、政権一途に帰し、一格の国体定制無ければ縦令人材を登用し、言路を開き、衆説を容るるとも、取捨方向無く、事業雑駁にして成功有るべからず。昨日出でし命令の、今日忽ち引き易ふると云ふ様なるも、皆統轄する所一ならずして、施政の方針一定せざるの致す所也。
現代語訳
賢人が百官を統べ、政権が一筋に帰し、一定の国のかたちと制度がなければ、たとえ人材を登用し、言論の道を開き、多くの意見を容れたとしても、取捨の方向が定まらず、事業は雑然として成功するはずがない。昨日出した命令を今日たちまち引っ込めるというようなことも、みな統轄するところが一つでなく、施政の方針が定まっていないことの結果である。
解説
一見すると人材登用や言論の自由を否定しているように読めるが、そうではない。「人材を登用し、言路を開き、衆説を容るる」——それらは前提として認めたうえで、その先に何が要るかを言っている。「取捨方向無く」が急所である。意見をいくら集めても、取るか捨てるかを決める軸がなければ、集めた分だけ散らかる。だから「一格の国体定制」——一つに定まった枠組みが先に要る、と。そして症状の診断が具体的だ。「昨日出でし命令の、今日忽ち引き易ふる」。朝令暮改は、決断力の欠如ではなく方針の不在から来る、という見立てである。多様な意見を集める仕組みを作った組織が、かえって動けなくなる場面は珍しくない。
この章句が説くこと
一格の国体定制取捨方向言路を開く朝令暮改人材登用信頼
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