甲陽軍鑑 / 品第四十七
又其年は今にかはり牢人衆漸廿三人あり、此中に國はいづくの人やらん荒川新之丞·村井久之丞とて、兩人兄弟のごとくに申合て罷出たる牢人あり、其兩人殊の外の才覺仁にて、長坂長閑·跡部大炊所へ常に立入、客來あれば、さくまひ所にて料理·膳部を請取、兩所を大切がほに致す事たゝ大かたならざるにより、長坂長閑·跡部大炊兩人の氣にあふて、是程の人、よにもあるまじきとほむる、其外少しも御前よき衆をば中々おもんじ、
新字:又其年は今にかはり牢人衆漸廿三人あり、此中に国はいづくの人やらん荒川新之丞·村井久之丞とて、両人兄弟のごとくに申合て罷出たる牢人あり、其両人殊の外の才覚仁にて、長坂長閑·跡部大炊所へ常に立入、客来あれば、さくまひ所にて料理·膳部を請取、両所を大切がほに致す事たゝ大かたならざるにより、長坂長閑·跡部大炊両人の気にあふて、是程の人、よにもあるまじきとほむる、其外少しも御前よき衆をば中々おもんじ、
書き下し
又其年は今にかはり牢人衆漸廿三人あり、此中に国はいづくの人やらん荒川新之丞·村井久之丞とて、両人兄弟のごとくに申合て罷出たる牢人あり、其両人殊の外の才覚仁にて、長坂長閑·跡部大炊所へ常に立入、客来あれば、さくまひ所にて料理·膳部を請取、両所を大切がほに致す事たゝ大かたならざるにより、長坂長閑·跡部大炊両人の気にあふて、是程の人、よにもあるまじきとほむる、其外少しも御前よき衆をば中々おもんじ、
現代語訳
またその年は今に変わり、牢人衆はようよう二十三人あり。この中に国はいずくの人やらん、荒川新之丞・村井久之丞とて、両人が兄弟のごとくに申し合わせて罷り出たる牢人がある。その両人は殊のほかの才覚仁にて、長坂長閑・跡部大炊の所へ常に立ち入り、客来があれば、さくまい所にて料理・膳部を請け取り、両所を大切がおにいたす事、ただ大方ならざるにより、長坂長閑・跡部大炊の両人の気に合うて、これほどの人は世にもあるまじきと褒むる。そのほか少しも御前のよき衆をばなかなか重んじ、鄭重拝舞して御膝を抱き入り、頼み奉るべきと、断りを五日前に知る人になりては六日目に、はや台所より練り入るほどの器用者なれば。
解説
この章句が説くこと
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『甲陽軍鑑』品第四十七ちんてうはいまうして御膝をだきいり、奉頼べきとことはりを五日前にしる人になりては六日目に、はや台所より、ねり入ほどの器用者なれば、長坂長閑·跡部大炊談合に牢人衆の中にて、荒川新之丞·村井久之丞二人は、なにを被仰付ても一かど然るべき人なり、是非共御取成し申べきとのことなれども、前にかわる事もなき所に卒爾に申上るに付ては、よきにはならずして結句面々旁まであしかるべしと存、
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『甲陽軍鑑』品第四十七扨又村井·荒川両人百日の内に落合彥介をうちたるといひ、頸を一ツ桶に入て甲府へ帰り候、長閑·大炊をもつて指あぐる、浅からざる手抦也、すでに落合が平三郎をきりたるは申の年、是は翌年の酉のとしの三月、荒川·村井御請を申し、四月罷出六月きたる、路次中のゆきゝをのけては七十日ばかりにて落合をうちて帰る、両人近年の牢人衆なれば、いまだ切符の体なれ共、旣に五百貫づゝ両人千貫可被下との思召也、
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『甲陽軍鑑』品第四十七惣別前より今まで長坂長閑·跡部大炊両人我きげんをとる者をば、あしきをもよく御取成しを申す、よき人をも我所へ音づれざる者をば、どこぞのはづれにて御取成をあしく申さるゝ事も勿体なき子細也、信玄公御在世の時さへやゝもすれば両人あしき分別とみゆるいはんや只今は勝頼公は若く御座なされ、昔しの衆は皆当年長篠にて討死して、拙くも我等式計り残るなり明日にも相果候はゞ、悉皆は長坂長閑·跡部大炊二人の内より外誰とても無之、両人の内にても長閑一入、侫人にて、我あしき分別をしては跡部大炊介へかづけらるゝとみへて候、長閑の分別なき事聞及びてあり、
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『甲陽軍鑑』品第四十七平三郎敵うちいたすべきとのぞみ申こと大慶に思召、其時にかぎり、あさ〳〵と仰いだされ、引物をあたへよと有て長坂長閑·跡部大炊分別をもつて落合彥介が討手に村井·荒川をさしこし候、此長坂長閑は信玄公御幼少の時分御局の弟なり、又跡部大炊は跡部尾張と申して、是も勝千代殿と申時の御もりの甥なり、何も御若年の時、局も御もりも死するに付て、是への御届けに長坂長閑·跡部大炊は出頭ときこへ候、
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『甲陽軍鑑』品第四十七一言申事ならず、さて右の荒川新之丞·村井久之丞両人長坂長閑·跡部大炊をもつて落合彥介をうちて可参と申上る、長閑·大炊かねてより二人の牢人衆を別してかいほう申に付、則ち隠密にて披露いたす、牢人衆の内に荒川·村井両人にて落合彥介をうちて可参とのぞみ申す、此者どもは一段すみやかなる衆にて、余所においても数度の手抦をいたしたるよし様々御とりなし申あぐる、信玄公常の事をば大かたならず被入御念といへども、金丸平三郎御意に入たる者なれば、
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『甲陽軍鑑』品第四十七扨て弥次郎·飯富三郎兵衛·原隼人両人を頼み、此事を内々にて御耳へいれて給はれと申す、両人曲淵を上様秘蔵なさるゝ者なればなるまじきとてうちおかる、又長坂長閑·跡部大炊介を頼みければ、両人申すは尤も申しあぐべし、今程人の形義·作法肝要になさるゝ間、申上るに付ては大略彼の曲淵は御成敗なるべし、板垣弥次郎申すは、飯富三郎兵衛·原隼人は曲淵上様御秘蔵の者なると申して、両所は請をはずといへば、