甲陽軍鑑 / 品第四十
我もよりの大略のはたらきを一といひてよき手抦專らにする人をおとりに申者、おのれが身にかけてあしうしなす女侍をも兩方善惡共に信玄が書付て置たりと仰られ候、定て其方土屋殿は見給はぬかと山縣申さるれば、右衛門尉當年も兩度見申候、御家中つよき事淺からず、廿ヶ年こなたへは左樣の者一人もなし、信虎の御代に信玄公十六歲よりあそばし置る、卅の御歳迄十五年の間に九人左樣のあしき人有て、各よの事によそへて改易なれば、其親類衆へのためにむさと申さず候、若き衆にかたり候はど、やがて彼一類をも女侍のよし贔負也といはど、
新字:我もよりの大略のはたらきを一といひてよき手抦専らにする人をおとりに申者、おのれが身にかけてあしうしなす女侍をも両方善悪共に信玄が書付て置たりと仰られ候、定て其方土屋殿は見給はぬかと山県申さるれば、右衛門尉当年も両度見申候、御家中つよき事浅からず、廿ヶ年こなたへは左様の者一人もなし、信虎の御代に信玄公十六歳よりあそばし置る、卅の御歳迄十五年の間に九人左様のあしき人有て、各よの事によそへて改易なれば、其親類衆へのためにむさと申さず候、若き衆にかたり候はど、やがて彼一類をも女侍のよし贔負也といはど、
書き下し
我もよりの大略のはたらきを一といひてよき手抦専らにする人をおとりに申者、おのれが身にかけてあしうしなす女侍をも両方善悪共に信玄が書付て置たりと仰られ候、定て其方土屋殿は見給はぬかと山県申さるれば、右衛門尉当年も両度見申候、御家中つよき事浅からず、廿ヶ年こなたへは左様の者一人もなし、信虎の御代に信玄公十六歳よりあそばし置る、卅の御歳迄十五年の間に九人左様のあしき人有て、各よの事によそへて改易なれば、其親類衆へのためにむさと申さず候、若き衆にかたり候はど、やがて彼一類をも女侍のよし贔負也といはど、
現代語訳
我が身寄りのおおかたの働きを一と言って、よい手柄をもっぱらにする人を劣りに申す者、自分の身にかけて悪くしてしまう女侍をも、両方の善悪ともに信玄が書き付けて置いていると仰せられた。きっとその方の土屋殿は見られなかったかと山県が申されると、右衛門尉は、当年も二度見申しました。御家中の強いことは浅くありません。二十年こなたにはそのような者は一人もございません。信虎の御代に、信玄公が十六歳から遊ばし置かれ、三十の御歳まで十五年のあいだに九人そのような悪い人があって、それぞれ他の事にかこつけて改易であるから、その親類衆のために軽々しくは申しません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『甲陽軍鑑』品第四十右の次に山県三郎兵衛曰く、一ツ塲所にて侍一二人走り廻りの中に、類親おほき方をましのやうに申、それは信玄公大きにきらひ給ふは、上かろければ、ひいき〳〵の沙汰にて悉皆大将もなく、縦へ大将ありても、未練なる君の下にて弓矢のせんさく、女人のいさかひにおほき方の申かつ様子に相似たり、大将よければ、ましはまし、おとり対々なるは同じ事と分るがよき大将のわざなり、かならずおほき人の中には、せんさくなしに、むざと我ひいきをほむる女侍沢山なり、去に付かたましき侍とは女を三人よせてかくげに候、
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『甲陽軍鑑』品第四十扨て悪き事あり共類親広き近付知音のひいき多くある者は悪事を吉事と申なし、さやうのまつりごとにてむほんの儀もかくして悪事出来してから大将の耳へ入る共それは更に所詮なき儀なり、其みなもとは出頭人の親類うかへてまはり、或はよきひきもちたる奉公人共、下の手抦を中にいひ、中の手抦を上に申、又ひいきなきをば中にいひ、中を下にいふ事、ひいき〳〵の取さた故如此、
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『甲陽軍鑑』品第四十女はひいきも正にならず、にくむも正にならず、ふがいなくかざる人間なれば、男子道にかさる人をば女侍と信玄公の仰らるゝ、
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『正法眼蔵随聞記』巻四示して云く、善悪と云ふこと定め難し、世間の人は綾羅錦繡をきたるをよしと云ふ、麁布糞掃衣をわるしと云ふ、仏法には此れをよしとし、清しとし、金銀錦綾をわるしとし、けがれたりとす、かくの如く、一切のことにわたりて皆然り、予が如きも、聊か韻声をとゝのへ、文字をかきすぐるゝを、俗人等は尋常ならぬことに云もあり、亦有人は出家学道の身としてかくの如きのこと知れるとそしる人もあり、いづれをか定めて善として取り、悪としてすつへきぞ、
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『正法眼蔵随聞記』巻四文に云く、ほめて白品の中にあるを善と云ふ、そしりて黒品の中におくを悪と云ふと、亦云く、苦を受くべきを悪と云ふ、楽をまねくべきを善と云ふと、かくの如く子細に分別して、真実の善を見て行し、真実の悪を見てすつべきなり、僧は清浄の中より来れるものなれば、人の欲を起すまじきものを以てよしとし、きよきとするなり、示して云く、
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『甲陽軍鑑』品第四十就中よき武士他国より来る類親なき者、手がらの儀ひいき〳〵に申につき、信玄公度々御諚に、おのれがぬき出たる手がらをして、大略にいはるゝは、何程口惜からんと分別してみよ、そこの程をかんがうる者は、かならず中悪き人の事をも、ありように云ふを、其手抦をそしらぬ侍の我身にかけて大きなる武篇をいたす儀と、又よし贔負おほうして種々作ことをいひ、