甲陽軍鑑 / 品第四十
其方ばかりにかきらず舍弟助六殿·惣藏殿幸ひこゝにいられ候、兄弟三人へ語つてきかせ申さんとて山縣三郞兵衞いはるゝは、若者に三人あり、第一に異相者、第二にだて者、第三にゑち者是れ三人なり、先一番に異相者は、ひとかたぎにて武士道のやくに立事すぐれて心〓く、縱へば刀·脇指のかわりて出來たる樣なり、御家に穴山殿など夷大黑にて紙子を作りきてあり、かゝる此穴山殿異相人也、又小身にては名和無理介異相者也、國持の異相人は織田信長なり、
新字:其方ばかりにかきらず舎弟助六殿·惣蔵殿幸ひこゝにいられ候、兄弟三人へ語つてきかせ申さんとて山県三郎兵衛いはるゝは、若者に三人あり、第一に異相者、第二にだて者、第三にゑち者是れ三人なり、先一番に異相者は、ひとかたぎにて武士道のやくに立事すぐれて心〓く、縦へば刀·脇指のかわりて出来たる様なり、御家に穴山殿など夷大黒にて紙子を作りきてあり、かゝる此穴山殿異相人也、又小身にては名和無理介異相者也、国持の異相人は織田信長なり、
書き下し
其方ばかりにかきらず舎弟助六殿·惣蔵殿幸ひこゝにいられ候、兄弟三人へ語つてきかせ申さんとて山県三郎兵衛いはるゝは、若者に三人あり、第一に異相者、第二にだて者、第三にゑち者是れ三人なり、先一番に異相者は、ひとかたぎにて武士道のやくに立事すぐれて心〓く、縦へば刀·脇指のかわりて出来たる様なり、御家に穴山殿など夷大黒にて紙子を作りきてあり、かゝる此穴山殿異相人也、又小身にては名和無理介異相者也、国持の異相人は織田信長なり、
現代語訳
その方ばかりに限らず、舎弟の助六殿・惣蔵殿も幸いここにおられる。兄弟三人へ語って聞かせ申そうと言って、山県三郎兵衛が言われるには、若者に三人ある。第一に異相者、第二にだて者、第三にえち者、これで三人である。まず一番に異相者は、ひと気質であって武士道の役に立つ事がすぐれて心よく、たとえば刀・脇指が変わって出来たようである。御家に穴山殿など、夷大黒で紙子を作って着ておられる。このような穴山殿は異相人である。また小身では名和無理介が異相者である。国持ちの異相人は織田信長である。
解説
この章句が説くこと
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『甲陽軍鑑』品第四十子細は織田信長行義あらしと雖、人の目利上手にて、池田·柴田·滝川·木下·丹羽·河尻·佐久間などと云ふ者共、武辺なければ分別すぐれ、いづれも少身なる衆を目利有、取たて一廉の侍と近国·他国へ名をよばする、信長扇·鼻紙をばわすれて刀·脇指を忘ぬ心なり、
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『甲陽軍鑑』品第四十三番にゑち者と申は、小袖·諸道具をもいつくしくばかり思案して、女の好やうに仕り、微若なる奴を、ゑち者とて何の役にもたゝぬ臆病者にて、廿に余り卅に成てもよき事なく、はぢを恥と思はず、殊更其人は口たけて明暮はかにもたこぬ、はをぬき、所体をよくしたがり、たけき兵の権だかなるをまねそこなひ、ざとうのすねるごとくに、所ごとにて大口を聞、武篇の時は人なみより内のしらみ頸のつれをも漸拾ひ、親兄弟の敵ありてもねらはず、ぶせんさくなる事を遠慮なしに申、戯げ者をば我等の同心に仕らず候と土屋右衛門尉·弟金丸助六·同惣蔵三人に山県三郎兵衛おしゆるなり、
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『甲陽軍鑑』品第四十侍をわらんべの時めしつかふに、見知様子大方四ツあり、一人武士道におぼへの者、二人かひ〳〵しき者、三人はしりめぐり一かど仕べき利口者、三人寄合武者雑談いたす所にて童らべ四人其座敷にあり、一人は口をあき、かたる者のかほばかりみてきく、二人めは耳をすまし、ちとうつふきて是を聞、三人めは、かたる人の顏をみて少しづゝ笑ひ、ゑみがほし退く、かやうに色々有、先始のうか〳〵と聞童べ後迄も其心とをり、いかわねばに武篇·塲数ありても、跡さきのわきまへもなく形義取ひろけ、つゞかぬ作法なれば、似あはしき内の者の然るべきをももたず、よき友·傍輩の異見うくる近づきもなきもの也、
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『甲陽軍鑑』品第四十七惣別噐用だてをする者は無噐用の真只中、分別だてをする者は無分別の九ツ時分にて候ぞ、武士は手の外を仕り、下よりつもられぬが本の大将也と申されたるよし聞及て候、信長公あらぎなる大将のやうに申なし候へ共、右の段は聞事なることなり、
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『甲陽軍鑑』品第四十土屋右衛門尉がいはすると馬塲殿·山県殿はじめおほしめさんと存知、今ならではいはぬと有て、弟の助六·惣蔵口をもかためられけるなり、一阿部加賀守山県三郎兵衛相伴に土屋右衛門尉所へよばれ、山県よろづ武道せんさく仕らるゝ挨拶のあとをとり後阿部申は、右衛門尉殿の御事はかたのごとく若き功者にてまします、舎弟助六郎殿·惣蔵殿聞せられよ、惣別若き衆は何事もなされざる間が奥深き物にて候、
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『甲陽軍鑑』品第四十右の次に山県三郎兵衛曰く、一ツ塲所にて侍一二人走り廻りの中に、類親おほき方をましのやうに申、それは信玄公大きにきらひ給ふは、上かろければ、ひいき〳〵の沙汰にて悉皆大将もなく、縦へ大将ありても、未練なる君の下にて弓矢のせんさく、女人のいさかひにおほき方の申かつ様子に相似たり、大将よければ、ましはまし、おとり対々なるは同じ事と分るがよき大将のわざなり、かならずおほき人の中には、せんさくなしに、むざと我ひいきをほむる女侍沢山なり、去に付かたましき侍とは女を三人よせてかくげに候、