韓非子 / 外儲説右上第三十四
宋人有酤酒者,升概甚平,遇客甚謹,爲酒甚美,縣幟甚高著,然不售,酒酸。怪其故,問其所知。問長者楊倩,倩曰:「汝狗猛耶?」曰:「狗猛則酒何故而不售?」曰:「人畏焉。或令孺子懷錢挈壺罋而往酤,而狗迓而齕之,此酒所以酸而不售也。」
新字:宋人有酤酒者,升概甚平,遇客甚謹,為酒甚美,県幟甚高著,然不售,酒酸。怪其故,問其所知。問長者楊倩,倩曰:「汝狗猛耶?」曰:「狗猛則酒何故而不售?」曰:「人畏焉。或令孺子懐銭挈壺罋而往酤,而狗迓而齕之,此酒所以酸而不售也。」
書き下し
宋人に酒を酤る者有り。升概甚だ平らかに、客に遇うこと甚だ謹み、酒を為ること甚だ美く、幟を県くること甚だ高著なり。然れども售れず、酒酸る。其の故を怪しみ、其の知る所に問う。長者楊倩に問う。倩曰く、「汝が狗猛きか。」曰く、「狗猛ければ則ち酒何の故にか售れざる。」曰く、「人畏るればなり。或いは孺子をして銭を懐き壺罋を挈げて往きて酤わしむるに、狗迓えて之を齕む。此れ酒の酸りて售れざる所以なり。」
現代語訳
宋の国に酒を売る者がいた。升の量りは公平で、客への応対も丁寧、酒の味も申し分なく、看板も高々と掲げていた。それなのに売れず、酒は酸っぱくなってしまう。不思議に思って知り合いに尋ねた。長老の楊倩に問うと、楊倩は言った。「お前の家の犬は獰猛か。」「犬が獰猛だと、どうして酒が売れないのですか。」「人が怖がるからだ。子どもに銭を持たせ壺を提げて買いに行かせても、犬が出てきて噛みつく。それが酒が酸っぱくなって売れない理由だ。」
解説
商売の四条件が揃っているのに売れない、という設定が見事である。量りは公平、応対は丁寧、味は良い、宣伝もしている。普通に考えれば原因は見当たらない。だから店主は不思議がった。答えは商品でも価格でも宣伝でもなく、店先の犬だった。売れない理由を商品の中に探している限り、永久に見つからない種類の原因である。事業でこの型は頻繁に起きる。品質を上げ、価格を見直し、広告を打っても数字が動かない。原因が、顧客がたどり着く途中にあるからだ。問い合わせへの返信の遅さ、担当者の応対、申込画面の複雑さ。作り手からは見えず、客からは真っ先に見える。店主が自分では気づけず、外の長老に指摘されたという筋立ても示唆的である。