格言聯璧 / 接物類・寬厚なる者は人をして恃む所有らしむる毋かれ
寬厚者,毋使人有所恃。 精明者,不使人無所容。 事有知其當變,而不得不因者,善救之而已矣。 人有知其當退,而不得不用者,善馭之而已矣。
新字:寛厚者,毋使人有所恃。 精明者,不使人無所容。 事有知其当変,而不得不因者,善救之而已矣。 人有知其当退,而不得不用者,善馭之而已矣。
書き下し
寬厚なる者は、人をして恃む所有らしむる毋かれ。 精明なる者は、人をして容るる所無からしめず。 事に其の當に變ずべきを知りて、因らざるを得ざる者有らば、善く之を救ふのみ。 人に其の當に退くべきを知りて、用ゐざるを得ざる者有らば、善く之を馭するのみ。
現代語訳
寛大で温厚な人は、人がそれに甘えてつけこむ余地を与えてはいけません。 細かく目の利く人は、人が身の置き所をなくすようにしてはいけません。 改めるべきだと分かっていながら、従来どおりにせざるを得ない事があれば、うまく補って救うだけです。 退けるべきだと分かっていながら、使わざるを得ない人がいれば、うまく御するだけです。
解説
前の対句は、長所が行き過ぎて短所に変わることへの戒めです。寛厚な人は人に甘えられやすく、精明な人は人を追い詰めやすい。自分の長所がどんな弊害を生むかを知っておけというのです。後の対句は、理想どおりにいかない現実への処し方です。変えるべき制度をすぐには変えられないとき、退けるべき人をすぐには外せないとき、嘆いても仕方がなく、補い方と使い方を工夫するしかないと説きます。何でも白黒をつけて一気に変えようとするのではなく、制約の中で最善を尽くすという、大人の実務感覚がよく表れています。組織にいれば、思いどおりにならない仕組みや人事は必ずあります。そのとき、救い方と御し方を考えるのが上に立つ人の仕事なのでしょう。
この章句が説くこと
寛厚統率接物処事用人
関連する章句
-
『格言聯璧』接物類・身を持するには太だ皎潔なるべからず奸人は詐りて名を好む、他の事を行ふに確かに君子に似たる處有り。 迂人は執りて化せず、其の決裂は小人より甚だしき時有り。 身を持するには太だ皎潔なるべからず、一切の汙辱垢穢も、茹み納れ得るを要す。 世に處するには太だ分明なるべからず、一切の賢愚好醜も、包容し得るを要す。
-
『格言聯璧』接物類・人褊急なれば我受くるに寬宏を以てす剛鯁の人に遇はば、須らく他の戾氣に耐ふべし。駿逸の人に遇はば、須らく他の妄氣に耐ふべし。 樸厚の人に遇はば、須らく他の滯氣に耐ふべし。佻達の人に遇はば、須らく他の浮氣に耐ふべし。 人褊急なれば、我之を受くるに寬宏を以てす。 人險仄なれば、我之を平らぐるに坦蕩を以てす。
-
『格言聯璧』接物類・毛を吹き垢を索めて人の得失を議す人を待つには當に過有る中より過無きを求むべし、但だ厚きを存するのみに非ず、亦た且つ怨みを解く。 事の後にして人の得失を議し、毛を吹き垢を索めて、絲毫も放寬するを肯んぜず。試みに思へ、己其の局に當らば未だ必ずしも能く彼の萬一をも效さざらんことを。 旁觀して人の短長を論じ、隱を抉り微を摘みて、些須の余地をも留めず。試みに思へ、己其の毀を受けば、未だ必ずしも能く意を安んじて順ひ承けざらんことを。
-
『格言聯璧』持躬類・情を以て人を恕し、理を以て己を律す趣味は沖淡なるを要すれども、枯寂なるべからず。 操守は嚴明なるを要すれども、激烈なるべからず。 聰明なる者は太だ察するを戒め、剛強なる者は太だ暴なるを戒め、溫良なる者は斷無きを戒む。 小惠を施して大體を傷ふ勿れ、公道を借りて私情を遂ぐる毋れ。情を以て人を恕し、理を以て己を律す。
-
『格言聯璧』接物類・一語我が長厚を傷らば言に形す勿かれ事曖昧に屬せば、他を回護せんことを思ふを要し、一點の攻訐の念頭をも著け得ず。 人寒微に屬せば、他を矜禮せんことを思ふを要し、一毫の傲睨の氣象をも著け得ず。 凡そ一事にして人の終身に關らば、縱ひ確かに見實に聞くも、口に著くべからず。 凡そ一語にして我が長厚を傷らば、閑談酒謔と雖も、慎みて言に形す勿かれ。
-
『格言聯璧』接物類・彼の理非なれば我之を容る古來の極冤の人を念へば、則ち一毀一辱、何ぞ計較するを須ゐん。 彼の理是にして、我の理非なれば、我之に讓る。 彼の理非にして、我の理是なれば、我之を容る。 能く小人を容るるは、是れ大人なり。能く薄德を培ふは、是れ厚德なり。