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十善法語 / 巻第十・不邪見戒之上

又一類偏見ノ者カ。思惟分別シテカク云。誠ノ道ト云モノハ。今日ノ有ルヘキ通リニ在ル。今ノ掟ヲ守リ。今ノ道ヲ行ヒ。今ノ言ヲイヒ。今ノ君ニ事ヘ。今ノ人ニ交リ。今ノ衣ヲ着シ。今ノ食ヲクラヒ。今日ノ業ヲ本トシ。心ヲスクニシ。身持ヲ正クシ。物イヒヲ徐ニシテ。立フルマヒヲ愼ミ。親アル者ハ能コレニ事マツリ。君アル者ハ能コレニ心ヲ盡シ。子アル者ハ能コレヲ訓ヘ。臣アル者ハ能コレヲオサメ。夫アル者ハ能コレニ從ヒ。妻アル者ハ能コレヲヒキヰ。兄アル者ハ能コレヲ敬ヒ。弟アル者ハ能コレヲ憐ミ。年ヨリタル者ハ能コレヲイトホシミ。幼者ハ能コレヲ慈ミ。先祖ノコトヲ忘レス。一家ノ親ヲオロソカニセス。勝タルヲ貴ミ。愚ナルヲ侮ラス。凡ソ我身ニ當テ惡シキコトヲ人ニナサス。スルドニカトカトシカラス。ヒカミテ頑ナラス。迫リテセハセハシカラス。怒ルトモ其ホトヲアヤマラス。喜トモ其守ヲ失ハス。受マシキ物ハ塵ニテモ取ズ。與フヘキニ臨ミテハ國ヲモ惜マス。色ヲ好テ溺レス。酒ヲ飮テ亂レス。人ニ害ナキ物ヲ殺サス。身ノ養ヲ愼ミ。貴賤共ニ其分ニ違ハヌ。古今萬國ミナ道ハ此ニトトマルト。

新字:又一類偏見ノ者カ。思惟分別シテカク云。誠ノ道ト云モノハ。今日ノ有ルヘキ通リニ在ル。今ノ掟ヲ守リ。今ノ道ヲ行ヒ。今ノ言ヲイヒ。今ノ君ニ事ヘ。今ノ人ニ交リ。今ノ衣ヲ着シ。今ノ食ヲクラヒ。今日ノ業ヲ本トシ。心ヲスクニシ。身持ヲ正クシ。物イヒヲ徐ニシテ。立フルマヒヲ慎ミ。親アル者ハ能コレニ事マツリ。君アル者ハ能コレニ心ヲ尽シ。子アル者ハ能コレヲ訓ヘ。臣アル者ハ能コレヲオサメ。夫アル者ハ能コレニ従ヒ。妻アル者ハ能コレヲヒキヰ。兄アル者ハ能コレヲ敬ヒ。弟アル者ハ能コレヲ憐ミ。年ヨリタル者ハ能コレヲイトホシミ。幼者ハ能コレヲ慈ミ。先祖ノコトヲ忘レス。一家ノ親ヲオロソカニセス。勝タルヲ貴ミ。愚ナルヲ侮ラス。凡ソ我身ニ当テ悪シキコトヲ人ニナサス。スルドニカトカトシカラス。ヒカミテ頑ナラス。迫リテセハセハシカラス。怒ルトモ其ホトヲアヤマラス。喜トモ其守ヲ失ハス。受マシキ物ハ塵ニテモ取ズ。与フヘキニ臨ミテハ国ヲモ惜マス。色ヲ好テ溺レス。酒ヲ飲テ乱レス。人ニ害ナキ物ヲ殺サス。身ノ養ヲ慎ミ。貴賤共ニ其分ニ違ハヌ。古今万国ミナ道ハ此ニトトマルト。

書き下し

又一類偏見ノ者カ。思惟分別シテカク云。誠ノ道ト云モノハ。今日ノ有ルヘキ通リニ在ル。今ノ掟ヲ守リ。今ノ道ヲ行ヒ。今ノ言ヲイヒ。今ノ君ニ事ヘ。今ノ人ニ交リ。今ノ衣ヲ着シ。今ノ食ヲクラヒ。今日ノ業ヲ本トシ。心ヲスクニシ。身持ヲ正クシ。物イヒヲ徐ニシテ。立フルマヒヲ慎ミ。親アル者ハ能コレニ事マツリ。君アル者ハ能コレニ心ヲ尽シ。子アル者ハ能コレヲ訓ヘ。臣アル者ハ能コレヲオサメ。夫アル者ハ能コレニ従ヒ。妻アル者ハ能コレヲヒキヰ。兄アル者ハ能コレヲ敬ヒ。弟アル者ハ能コレヲ憐ミ。年ヨリタル者ハ能コレヲイトホシミ。幼者ハ能コレヲ慈ミ。先祖ノコトヲ忘レス。一家ノ親ヲオロソカニセス。勝タルヲ貴ミ。愚ナルヲ侮ラス。凡ソ我身ニ当テ悪シキコトヲ人ニナサス。スルドニカトカトシカラス。ヒカミテ頑ナラス。迫リテセハセハシカラス。怒ルトモ其ホトヲアヤマラス。喜トモ其守ヲ失ハス。受マシキ物ハ塵ニテモ取ズ。与フヘキニ臨ミテハ国ヲモ惜マス。色ヲ好テ溺レス。酒ヲ飲テ乱レス。人ニ害ナキ物ヲ殺サス。身ノ養ヲ慎ミ。貴賤共ニ其分ニ違ハヌ。古今万国ミナ道ハ此ニトトマルト。

現代語訳

また、ある種の偏った見方の者が、思い巡らし分別してこう言う。まことの道というものは、今日あるべきとおりにある。今の掟を守り、今の道を行い、今の言葉を話し、今の主君に仕え、今の人と交わり、今の衣を着て、今の食べ物を食べ、今日の生業を本とし、心をまっすぐにし、身持ちを正しくし、物言いを穏やかにし、立ち居振る舞いを慎み、親のある者はよくこれに仕え、主君のある者はよくこれに心を尽くし、子のある者はよくこれを教え、臣下のある者はよくこれを治め、夫のある者はよくこれに従い、妻のある者はよくこれを導き、兄のある者はよくこれを敬い、弟のある者はよくこれを憐れみ、年寄りにはよくこれをいたわり、幼い者にはよくこれを慈しみ、先祖のことを忘れず、一家の親族をおろそかにせず、優れた者を尊び、愚かな者を侮らず、およそ自分の身にされて嫌なことを人にせず、鋭く角立てず、ひねくれて頑なにならず、せっぱ詰まってせかせかせず、怒ってもその程を誤らず、喜んでもその守りを失わず、受けるべきでない物は塵ほどでも取らず、与えるべき時には国をも惜しまず、色を好んでも溺れず、酒を飲んでも乱れず、人に害のない物を殺さず、身の養生を慎み、貴い者も賤しい者もともにその分に違わない。古今万国、道はみなここにとどまる、と。

解説

過去の聖人や教えの権威に頼らず、今の掟を守り、今の人と交わり、日々の務めを正しく勤めることこそまことの道だ、という説を紹介する段である。親に仕え、子を教え、自分がされて嫌なことを人にせず、怒っても程を誤らず、酒を飲んでも乱れないといった徳目は、それ自体としては穏当で、誰もが頷く内容である。夫に従い妻を導くといった説き方には当時の家族観が表れている。尊者がこれを偏見に数えるのは、徳目の中身ではなく、道をこの世の今だけに限ってそれ以上を認めない見方のためである。日々の務めを尊びながら、そこで思考を閉じない姿勢を考えさせる。

この章句が説くこと

誠の道偏見人倫中庸日常

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