十善法語 / 巻第九・不瞋恚戒
看ヨ。同類集リ生シテ自カラ其名ヲ知ラズ。異類相對シテ各各來處ヲ知ラヌ。緣有テ合會スル。異類モ我用トナル。緣盡テ離散スル。形骸モ黄土トナル。正眼ニ看來リ。正念ニ思惟スレハ。全ク是法ノ著シキ處。丸コカシ不瞋恚戒ノ儀シヤ。此世界平等ナリ。山川草木皆己心中ノ法門シヤ。飛花落葉悉ク我迷情ヲ開解スル道場シヤ。清風明月我ト共ニ善ヲ修シ惡ヲ止ムル友シヤ。馬ノ轡ヲ衝ム。牛ノ鼻木ヲ受ル。狗ノ門ヲ守ル。雞ノ曉ヲ報スル。山林ニ花果アル。田野ニ穀米アル。ミナ我手足庫藏シヤ。男女大小。起居動靜。ミナ我善知識シヤ。唯惡業因緣怨讎構造セルヲ除クシヤ。元來平等性ノ中。彼ニ是ナク此ニ非ナシ。此ニ愛ナク彼ニ憎ナシ。正眼ニ看來リ。正念ニ思惟スレハ。全ク是法ノ著シキ處。丸コカシ不瞋恚戒ノ儀シヤ。
新字:看ヨ。同類集リ生シテ自カラ其名ヲ知ラズ。異類相対シテ各各来処ヲ知ラヌ。縁有テ合会スル。異類モ我用トナル。縁尽テ離散スル。形骸モ黄土トナル。正眼ニ看来リ。正念ニ思惟スレハ。全ク是法ノ著シキ処。丸コカシ不瞋恚戒ノ儀シヤ。此世界平等ナリ。山川草木皆己心中ノ法門シヤ。飛花落葉悉ク我迷情ヲ開解スル道場シヤ。清風明月我ト共ニ善ヲ修シ悪ヲ止ムル友シヤ。馬ノ轡ヲ衝ム。牛ノ鼻木ヲ受ル。狗ノ門ヲ守ル。鶏ノ暁ヲ報スル。山林ニ花果アル。田野ニ穀米アル。ミナ我手足庫蔵シヤ。男女大小。起居動静。ミナ我善知識シヤ。唯悪業因縁怨讎構造セルヲ除クシヤ。元来平等性ノ中。彼ニ是ナク此ニ非ナシ。此ニ愛ナク彼ニ憎ナシ。正眼ニ看来リ。正念ニ思惟スレハ。全ク是法ノ著シキ処。丸コカシ不瞋恚戒ノ儀シヤ。
書き下し
看ヨ。同類集リ生シテ自カラ其名ヲ知ラズ。異類相対シテ各各来処ヲ知ラヌ。縁有テ合会スル。異類モ我用トナル。縁尽テ離散スル。形骸モ黄土トナル。正眼ニ看来リ。正念ニ思惟スレハ。全ク是法ノ著シキ処。丸コカシ不瞋恚戒ノ儀シヤ。此世界平等ナリ。山川草木皆己心中ノ法門シヤ。飛花落葉悉ク我迷情ヲ開解スル道場シヤ。清風明月我ト共ニ善ヲ修シ悪ヲ止ムル友シヤ。馬ノ轡ヲ衝ム。牛ノ鼻木ヲ受ル。狗ノ門ヲ守ル。鶏ノ暁ヲ報スル。山林ニ花果アル。田野ニ穀米アル。ミナ我手足庫蔵シヤ。男女大小。起居動静。ミナ我善知識シヤ。唯悪業因縁怨讎構造セルヲ除クシヤ。元来平等性ノ中。彼ニ是ナク此ニ非ナシ。此ニ愛ナク彼ニ憎ナシ。正眼ニ看来リ。正念ニ思惟スレハ。全ク是法ノ著シキ処。丸コカシ不瞋恚戒ノ儀シヤ。
現代語訳
見よ。同類が集まって生まれても、自らその名を知らない。異類が向かい合っても、おのおのその来た所を知らない。縁があって出会う。異類も自分の用となる。縁が尽きて離れ散る。形骸も黄土となる。正しい眼で見てきて、正しい念で思惟すれば、まったくこれは法の著しい所である。まるごと不瞋恚戒の姿である。この世界は平等である。山川草木はみな自分の心の中の法門である。飛ぶ花、落ちる葉は、ことごとく自分の迷いの情を開き解く道場である。清風明月は、自分と共に善を修め悪を止める友である。馬が轡をかむ。牛が鼻木を受ける。犬が門を守る。鶏が暁を告げる。山林に花や果実がある。田野に穀物や米がある。みな自分の手足であり蔵である。男女大小、起居動静が、みな自分の善知識である。ただ、悪業の因縁で怨みを作り出したものを除くのである。元来、平等の性の中では、あちらに是もなく、こちらに非もない。こちらに愛もなく、あちらに憎もない。正しい眼で見てきて、正しい念で思惟すれば、まったくこれは法の著しい所である。まるごと不瞋恚戒の姿である。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第九・不瞋恚戒初一念ノ瞋恚ハ纔ナレトモ。ソノ罪業障ノ增長スル。実ニ恐ルベキコトシヤ。経中ニ。マムシノ口ニ毒有ル。蜂ノ尾ニ毒アル類。皆瞋恚ノ姿トアル。人間ノ容貌醜陋ナルハ。人見テ悪賤スル。瞋恚ノ余業トアル。地獄界ノ猛火アルモ。此瞋恚ノ增上セル姿ト云コトシヤ。此等ハ譬ヘハ風寒暑湿ノ病。五臓ノ虚実ニ由テ。種種ノ怪夢ヲ見ル如ク。無ト云レヌシヤ。此心アリテ此身ヲ生スル。元来瞋恚ヲ生ズベキコトデナキシヤ。此身心アリテ山河大地ニ住在スル。元来瞋恚ヲ生ズベキ器デナキシヤ。此国界アリテ此ニ死シ彼ニ生スル。互ニ往来シ互ニ言議スル。正知見ニ看来リ。正念ニ思惟スレハ。全ク是法ノ著シキ処シヤ。丸コカシ不瞋恚戒ノ儀シヤ。此心平等ナリ。万法ヲ容テ障礙セス。此身平等ナリ。四大ヲ集メテ隔歴ナシ。正知見ニ看来リ。正念ニ思惟スレハ。全ク是法ノ著シキ処シヤ。丸コカシ不瞋恚戒ノ儀シヤ。法性カクノ如シヤ。一切器世間カクノ如シヤ。一切衆生世間モカクノ如クシヤ。
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『十善法語』巻第九・不瞋恚戒此人ノ此世ニ在ル。貴賤相従ヒ。老少相随フ。人畜交リ生シ。万物布列スルコト手足ノ一体ヲ共ニシ。二十指二十爪ノ各各布列スル如クシヤ。右辺是非ナク。左辺是非ナシ。其是非ヲ見ル者ハ見ル者ノ過シヤ。其瞋恚ヲ生スルハ生スル者ノ過シヤ。骨肉相纏縛シテ其中念相ノ仮ニ相続スルコト。海水ノ一波纔ニ動スレハ万波随フ如シ。前波ハ後波ノ起ルヲ知ラズ。後波ハ前波ヨリ動シ来ヲ知ラズ。前念ヲ縁トシテ後念続テ起ル。或ハ慳貪ムネヲ焦シ。瞋恚事ヲ敗ル。正念ニ思惟スレハ前念我他彼此ナク。後念我他彼此ナシ。唯慳貪ヲ起スハ。起ス者ノ失シヤ。瞋恚ヲ生スルハ。生スル者ノ過シヤ。
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『十善法語』巻第九・不瞋恚戒虚空ニ対シテ瞋恚ヲ生スルカ。此虚空ハ元来天地万物ヲ容テ。我瞋恚ニ相関カラヌ。此瞋恚労シテ功ナキシヤ。山川草木ニ対シテ瞋恚ヲ生スルカ。此山川ハ耳目ナク。思慮ナク。我瞋恚ヲ見聞分別セヌ。此草木ハ春夏ニ茂シ。秋冬ニ萎テ。我瞋恚ヲ屑トモセヌ。此瞋恚労シテ功ナキシヤ。鳥獣ニ対シテ瞋恚ヲ生スルカ。此鳥獣ハ自カラ水草ヲ逐ヒ。自ラ食ヲ求メ友ヲ求ム。我言意ヲ解セヌ。此瞋恚労シテ功ナキシヤ。人間ニ対シテ瞋恚ヲ生スルカ。此人間ハ日夜ニ衰老シテ終ニ死ニ帰スル。石火電光ノ暇且ク此世ニ存在スルモ。枯骨皮肉ニ裏マレタル物シヤ。我相手トナルニ何ノ所詮ナシ。此モ労シテ功ナキシヤ。過去ニ対シテ瞋恚ヲ生スルカ。過去ハ已ニ過テ跡カタモナキシヤ。未来ニ対シテ瞋恚ヲ生スルカ。未来ハ未タ来ラサレハ。安排布置カナラヌシヤ。現在ニ対シテ瞋恚ヲ生スルカ。現在ハ念念ニ過去ニ属スル。過去ノ過去際ヨリ未来際ヲ尽シテ。唯労シテ功ナキシヤ。
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『十善法語』巻第九・不瞋恚戒現今目前ニ虚空ト云モノアリテ。面白キシヤ。此虚空アリテ法ノ比況シ解シラルル。面白キシヤ。現今目前ニ山河大地ト云モノアリテ。面白キシヤ。此山河大地。虚空ノ中ニ安住シ起滅シテ。面白キシヤ。現今目前ニ衆生ト云モノアリテ。面白キシヤ。此衆生虚空ノ中ニ安住シ起滅シテ。面白キシヤ。此世界ニ此人間アル。空中ニ往来シ。元来根帯ナシ。空中ニ坐臥シテ自由ノ分ナシ。空中ニ天ヲ戴ク。此天空ニ浮テ元来根蒂ナシ。何ヤウニ迷ヲ重ネテモ。一念心ノ瞋恚生スヘキ理ナキシヤ。空中ニ地ヲ履ム。此地空ニ浮ヒテ元来根蔕ナシ。何ヤウニ迷ヲ累ネテモ。一念心ノ瞋恚生スヘキ理ナキシヤ。
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『十善法語』巻第九・不瞋恚戒我身心ノ苦悩不如意ハ我業力ニ由ル。他ノ知ルトコロニ非ス。他ノ慳貪恚憤ハ他ノ妄分別ニ由ル。我身心ニ関ルニアラス。一類愚味ノ者。我業力ニ誑サレテ他ヲ瞋ル。過タコトシヤ。一類愚昧ノ者他ノ妄分別ヲ執着シテ自カラ瞋恚ヲ動スル。浅間シキコトシヤ。迷謬ノ著シキシヤ。法性海中。其境或ハ心ニ順スルニ似ル。其境或ハ心ニ違フニ似ル。コノ順違雑リ生シテ。此世界カムツカシクナル。二六時中。唯是我他彼此シヤ。生ヨリ死ニ至ルマテ唯是橋慢嫉妬シヤ。順境ニ対シテ愛ヲ生スル。此愛衆生ヲ悩乱シテ狙マハシノ狙ヲ使フ如シ。違境ニ対シテ瞋恚ヲ起ス。此瞋恚衆生ヲ悩乱シテ。丈夫ノ小児ヲ弄スル如シ。愛ヨリ瞋恚ヲ起ス。瞋恚ヨリ愛ヲオコス。此心境界ヲ生スル。此境界心ヲ起ス。環ノ端ナキカ如ク。青蠅ノ腥肉ヲ離レ得ヌ如クシヤ。
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『十善法語』巻第一・不殺生戒第九ニ到ル処親愛シヤ。オソレハナキシヤ。外国ノ者カ此国ニ来テモ仁愛ヲ施ス。此国ノ者カ。海波ニ漂ハサレテ外国ニ行テモ接待迎送スル。不瞋恚戒ノ影ハ先カウシタモノシヤ。畜生ノ見レハ瞋リ逢ヘハカミアフヲ見ヨ。瞋恚業道ソノ影カクノ如クシヤ。唐書ニ象ノ礼節有ヲ記スル類。内典ニモ外典ニモ熊カ人ヲ救フタ事ノ類ハ。別途ノコトシヤ。第十ニ善悪邪正モ思惟スレハワカルル。心ヲ摂ムレハ摂メラルル。不邪見戒ノ影ハ先カウシタモノシヤ。畜生ナトヲヨク看ヨ。満身ノ苦ミ。心ヲオサムルイトマモナキシヤ。勿論理非ヲ分別スルコトモナラヌモノシヤ。満身ノ苦ミハ彼カ息ツカヒヲ見テ知レ。仏語ニ畜生ハ喘息安カラストアル。邪見業道ソノ影カクノ如クシヤ。経論諸伝ニ竜来テ法ヲ聴聞セシ類。師子月経ニ獼猴カ三帰ヲ受タ類ハ。別途ノ因縁シヤ。