十善法語 / 巻第四・不妄語戒
又有部律ノ中ニカウシタ事カアル。昔婆羅痆斯國梵授王ノ時。常御ノ雌象子ヲ產ニ苦ム。王諸ノ宮女ニ命シテ云。誰カアル眞實語ヲ說テ。此象ニ子ヲ產シムル者ゾト。其時數多ノ中ニ。一人ノ命ニ應スル者ナシ。傍ニ鄙賤牧牛ノ婦アリ。云。我眞實語アリ。我生來邪念ナシ。我夫ヲ除テ。外ナル男子ニ親マス。心ヲ寄セス。此言虚ナラスハ。此象安ラカニ產スヘシ。此語ヲ說キ竟ルトキ。象子出生ス。唯尾ニ至テサハリ有。此時婦人又自云。此般ノコトモ過ニナルコトカト。諸人問。汝何事アリシ。婦人答云。我少年ノ時。他ノ孩兒ヲ抱。彼小兒ニ親愛ノ情生ス。コレ般ノ事モ。他ノ男子タル者ニ親ムニ成コトカト。再ヒ此眞實語ヲ說ニ。象子安穩ニ生レ竟レリト。具サニ雜事ノ第二十九卷ニ出テアルシヤ。
新字:又有部律ノ中ニカウシタ事カアル。昔婆羅痆斯国梵授王ノ時。常御ノ雌象子ヲ産ニ苦ム。王諸ノ宮女ニ命シテ云。誰カアル真実語ヲ説テ。此象ニ子ヲ産シムル者ゾト。其時数多ノ中ニ。一人ノ命ニ応スル者ナシ。傍ニ鄙賤牧牛ノ婦アリ。云。我真実語アリ。我生来邪念ナシ。我夫ヲ除テ。外ナル男子ニ親マス。心ヲ寄セス。此言虚ナラスハ。此象安ラカニ産スヘシ。此語ヲ説キ竟ルトキ。象子出生ス。唯尾ニ至テサハリ有。此時婦人又自云。此般ノコトモ過ニナルコトカト。諸人問。汝何事アリシ。婦人答云。我少年ノ時。他ノ孩児ヲ抱。彼小児ニ親愛ノ情生ス。コレ般ノ事モ。他ノ男子タル者ニ親ムニ成コトカト。再ヒ此真実語ヲ説ニ。象子安穏ニ生レ竟レリト。具サニ雑事ノ第二十九巻ニ出テアルシヤ。
書き下し
又有部律ノ中ニカウシタ事カアル。昔婆羅痆斯国梵授王ノ時。常御ノ雌象子ヲ産ニ苦ム。王諸ノ宮女ニ命シテ云。誰カアル真実語ヲ説テ。此象ニ子ヲ産シムル者ゾト。其時数多ノ中ニ。一人ノ命ニ応スル者ナシ。傍ニ鄙賤牧牛ノ婦アリ。云。我真実語アリ。我生来邪念ナシ。我夫ヲ除テ。外ナル男子ニ親マス。心ヲ寄セス。此言虚ナラスハ。此象安ラカニ産スヘシ。此語ヲ説キ竟ルトキ。象子出生ス。唯尾ニ至テサハリ有。此時婦人又自云。此般ノコトモ過ニナルコトカト。諸人問。汝何事アリシ。婦人答云。我少年ノ時。他ノ孩児ヲ抱。彼小児ニ親愛ノ情生ス。コレ般ノ事モ。他ノ男子タル者ニ親ムニ成コトカト。再ヒ此真実語ヲ説ニ。象子安穏ニ生レ竟レリト。具サニ雑事ノ第二十九巻ニ出テアルシヤ。
現代語訳
また有部律の中に、こういうことがある。昔、波羅痆斯国の梵授王の時、王の常に乗る雌の象が子を産むのに苦しんだ。王は諸々の宮女に命じて言った。誰か真実の言葉を説いてこの象に子を産ませる者はいないか、と。その時、大勢の中に一人も命に応じる者がいなかった。傍らに身分の低い牛飼いの女がいて、言った。私には真実の言葉があります。私は生まれてこのかた邪な思いがありません。私の夫を除いて、ほかの男子に親しまず、心を寄せません。この言葉が偽りでなければ、この象は安らかに子を産むでしょう、と。この言葉を説き終えた時、象の子が生まれ出た。ただ尾のところで障りがあった。この時、女はまた自ら言った。あのようなことも過ちになるのだろうか、と。人々が問うた。お前は何事があったのか。女は答えて言った。私は若い時に他人の赤子を抱き、その小児に親しみ愛する情が生じました。あのようなことも、他の男子に親しむことになるのでしょうか、と。再びこの真実の言葉を説くと、象の子は安らかに生まれ終わった、と。詳しくは雑事の第二十九巻に出ているのである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
孟子・離婁章句下孟子曰く、「言に實無きは不祥なり。不祥の實は、賢を蔽う者之に當る。」 <解説> この節は分かりにくい。朱注に云う、「或いは曰く、天下の言實に不祥なる者有る無し、惟れ賢を蔽い不祥の實を為すと、或いは曰く、言にして實無き者は不祥なり、故に賢を蔽い不祥の實を為す、二説同じからず、未だ孰れが是なるか知らず、疑うらくは或いは闕文有らん。」私は後説を採用し、かなり強引な解釈をした。やはり朱子の言うように闕分が有るのだろうか。
-
尚書・周官德を作せば心逸んじて日々休く、偽を作せば心勞して日々拙し。
-
論語・為政篇子曰く、詩三百、一言以て之を蔽えば、曰く、思い邪(よこしま)無しと。
-
孟子・離婁章句上孟子曰く、「下位に居りて、上に獲られざれば、民得て治む可からざるなり。上に獲らるるに道有り。友に信ぜられずんば、上に獲られず。友に信ぜらるるに道有り。親に事えて悅ばれずんば、友に信ぜられず。親に悅ばるるに道有り。身に反して誠ならずんば、親に悅ばれず。身を誠にするに道有り。善に明らかならずんば、其の身に誠ならず。是の故に誠は、天の道なり。誠を思うは、人の道なり。至誠にして動かざる者は、未だ之れ有らざるなり。誠ならずして、未だ能く動かす者有らざるなり。」
-
徒然草・第233段万の科あらじと思はば、何事にも誠ありて、人を分かず恭しく、言葉すくなからむには如かじ。男女老少みなさる人こそよけれども、殊に若くかたちよき人の、言うるはしきは、忘れがたく思ひつかるゝものなり。よろづのとがは、馴れたるさまに上手めき、所得たるけしきして、人をないがしろにするにあり。
-
尚書・君陳至治は馨香にして、神明に感ず。黍稷は馨と非ず、明德のみ惟れ馨し。