十善法語 / 巻第三・不邪婬戒
古今何レノ國ニモ。此道亂ルレハ國ヲ亡シ家ヲ亡ス。唐ノ玄宗ハ平王ト云シ時ヨリ賢君ノ名アリテ。卽位ノ初メ臣僚ニ命シ。錦繡珠玉ヲ殿前ニ燒シム。其趣ヲ問ニ。答テ云。錦繡珠玉ハ民ト共ニ用フヘキナラスト。此類ニテ政正シク。群臣萬民カ太宗以來ノ君ト仰タト云。後壽王ノ妃楊氏ヲ納テ。終ニ天寶ノ亂ヲ招キ。唐朝ノ運カ此時ヨリ衰タト云シヤ。
新字:古今何レノ国ニモ。此道乱ルレハ国ヲ亡シ家ヲ亡ス。唐ノ玄宗ハ平王ト云シ時ヨリ賢君ノ名アリテ。即位ノ初メ臣僚ニ命シ。錦繡珠玉ヲ殿前ニ焼シム。其趣ヲ問ニ。答テ云。錦繡珠玉ハ民ト共ニ用フヘキナラスト。此類ニテ政正シク。群臣万民カ太宗以来ノ君ト仰タト云。後寿王ノ妃楊氏ヲ納テ。終ニ天宝ノ乱ヲ招キ。唐朝ノ運カ此時ヨリ衰タト云シヤ。
書き下し
古今何レノ国ニモ。此道乱ルレハ国ヲ亡シ家ヲ亡ス。唐ノ玄宗ハ平王ト云シ時ヨリ賢君ノ名アリテ。即位ノ初メ臣僚ニ命シ。錦繡珠玉ヲ殿前ニ焼シム。其趣ヲ問ニ。答テ云。錦繡珠玉ハ民ト共ニ用フヘキナラスト。此類ニテ政正シク。群臣万民カ太宗以来ノ君ト仰タト云。後寿王ノ妃楊氏ヲ納テ。終ニ天宝ノ乱ヲ招キ。唐朝ノ運カ此時ヨリ衰タト云シヤ。
現代語訳
古今どの国でも、この道が乱れれば国を滅ぼし家を滅ぼす。唐の玄宗は平王と呼ばれていた時から賢君の名があって、即位の初めに臣下に命じて、錦や刺繍の織物、珠玉を宮殿の前で焼かせた。その趣旨を問うと、答えて、錦繍や珠玉は民とともに用いることのできるものではない、と言った。このようなことで政治が正しく、群臣も万民も太宗以来の君主と仰いだという。後に寿王の妃である楊氏を迎え入れて、ついに天宝の乱を招き、唐朝の運はこの時から衰えたというのである。
解説
唐の玄宗は即位の当初、奢侈を戒めて開元の治と呼ばれる善政を行ったが、後に息子の寿王の妃であった楊氏、つまり楊貴妃を後宮に迎え、やがて天宝年間の安禄山の乱を招いた。慈雲はこれを、閨門の乱れが国の命運を傾けた例として挙げる。始めに優れていた人が、私生活の乱れから積み上げたものを失うという構図である。立場が上がるほど、公の仕事と私の振る舞いは切り離せなくなる、という教訓として読める。
この章句が説くこと
玄宗楊貴妃治乱奢侈閨門
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