十善法語 / 巻第一・不殺生戒
十善ト說ケトモ唯一佛性シヤ。一法性シヤ。此法性ニ順シテ心ヲ起スヲ善ト云。此ニ背クヲ惡ト云。惡ハ必ス法性ニソムク。法性ト云ヘハ。マタ名目ニ落テムツカシキカ。手近ク云ハハ。惡ハ人間生レママノ心ニ背ク。看ヨ。子共テモムコキト云コトハ知ル。盜人ト云ヘハ腹ヲ立ル。婬事ハ耻ル。詐ルト云ヘハ赤面スル。カル口ハイヤシムコトヲ知ル。麁言モヨクナキコトヲ知ル。他ノナカコトモ。云マシキコトヲ知ル。物ヲホシカルコトモ。氣ノ短キコトモ。自ラ羞ル。善事ト云ヘハ悅フ。惡事ト云ヘハ怖ルル。ナニ故ナレハ。此十善ハ。生レママニ具テ有シヤ。儒書ニモ。大人ハソノ赤子ノ心ヲ失ハサルノミトアルシヤ。
新字:十善ト説ケトモ唯一仏性シヤ。一法性シヤ。此法性ニ順シテ心ヲ起スヲ善ト云。此ニ背クヲ悪ト云。悪ハ必ス法性ニソムク。法性ト云ヘハ。マタ名目ニ落テムツカシキカ。手近ク云ハハ。悪ハ人間生レママノ心ニ背ク。看ヨ。子共テモムコキト云コトハ知ル。盗人ト云ヘハ腹ヲ立ル。婬事ハ耻ル。詐ルト云ヘハ赤面スル。カル口ハイヤシムコトヲ知ル。麁言モヨクナキコトヲ知ル。他ノナカコトモ。云マシキコトヲ知ル。物ヲホシカルコトモ。気ノ短キコトモ。自ラ羞ル。善事ト云ヘハ悦フ。悪事ト云ヘハ怖ルル。ナニ故ナレハ。此十善ハ。生レママニ具テ有シヤ。儒書ニモ。大人ハソノ赤子ノ心ヲ失ハサルノミトアルシヤ。
書き下し
十善ト説ケトモ唯一仏性シヤ。一法性シヤ。此法性ニ順シテ心ヲ起スヲ善ト云。此ニ背クヲ悪ト云。悪ハ必ス法性ニソムク。法性ト云ヘハ。マタ名目ニ落テムツカシキカ。手近ク云ハハ。悪ハ人間生レママノ心ニ背ク。看ヨ。子共テモムコキト云コトハ知ル。盗人ト云ヘハ腹ヲ立ル。婬事ハ耻ル。詐ルト云ヘハ赤面スル。カル口ハイヤシムコトヲ知ル。麁言モヨクナキコトヲ知ル。他ノナカコトモ。云マシキコトヲ知ル。物ヲホシカルコトモ。気ノ短キコトモ。自ラ羞ル。善事ト云ヘハ悅フ。悪事ト云ヘハ怖ルル。ナニ故ナレハ。此十善ハ。生レママニ具テ有シヤ。儒書ニモ。大人ハソノ赤子ノ心ヲ失ハサルノミトアルシヤ。
現代語訳
十善と説くけれども、ただ一つの仏性である。一つの法性である。この法性に順って心を起こすのを善と言う。これに背くのを悪と言う。悪は必ず法性に背く。法性と言えば、また名目に落ちて難しいだろうか。手近に言えば、悪は人間の生まれたままの心に背く。見なさい。子供でも、むごいということは知っている。盗人と言えば腹を立てる。淫らな事は恥じる。偽ると言えば赤面する。軽口は卑しいことだと知っている。粗暴な言葉もよくないことだと知っている。他人の仲を裂く言葉も、言ってはならないことだと知っている。物を欲しがることも、気の短いことも、自ら恥じる。善い事と言えば喜ぶ。悪い事と言えば恐れる。なぜかといえば、この十善は生まれたままに具わっているのである。儒書にも、「大人とは、その赤子の心を失わない者にすぎない」とあるのである。
解説

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