葉隠 / 聞書第十一
旅宿にては、先づ裏道詰り、後架等見屆け、火事の時分、退場方角心當ていし、家の住居、壁、天井、床、戸、障子、緣、疊等迄氣を附くべし。二重壁、床板取りはなしに拵へ、又は掛物の下の壁を明け、夜更けてより盜賊入込む事あるべし。就中御本陣に心を附くべし。休み候時、跡にならざる樣に仕るべきなり。
新字:旅宿にては、先づ裏道詰り、後架等見届け、火事の時分、退場方角心当ていし、家の住居、壁、天井、床、戸、障子、縁、畳等迄気を附くべし。二重壁、床板取りはなしに拵へ、又は掛物の下の壁を明け、夜更けてより盗賊入込む事あるべし。就中御本陣に心を附くべし。休み候時、跡にならざる様に仕るべきなり。
書き下し
旅宿(りょしゅく)にては、先づ裏道詰(うらみちづま)り、後架(こうか)等見屆(みとど)け、火事の時分、退場(たいじょう)方角心當(こころあ)ていし、家の住居(すまい)、壁、天井、床、戸、障子、緣(えん)、疊(たたみ)等まで氣を附くべし。二重壁、床板取りはなしに拵(こしら)え、又は掛物(かけもの)の下の壁を明(あ)け、夜更けてより盜賊(とうぞく)入込(いりこ)む事あるべし。就中(なかんずく)御本陣(ごほんじん)に心を附くべし。休み候時、跡(あと)にならざる樣に仕るべきなり。
現代語訳
旅の宿では、まず裏道の行き止まりや便所などを確かめ、火事のときの逃げ場や方角を見当づけておき、家の造り、壁、天井、床、戸、障子、縁側、畳にいたるまで気を配るべきである。二重壁や、取り外せるように作った床板、あるいは掛け物の下の壁を開けて、夜更けに盗賊が忍び込むこともあり得る。とりわけ本陣(宿泊所)には注意せよ。休むときには、あとになって(不覚を取ることの)ないようにするべきである。
解説
旅先の宿での用心を説いた、危機管理の心得です。到着したらまず逃げ道や便所の位置を確かめ、火事のときの避難経路を頭に入れ、壁や床の造りまで観察して、盗賊の侵入や不意の危険に備えよと説きます。核にあるのは「安心できる場所でこそ、あらかじめ最悪に備えておく」という周到さでしょう。慣れない土地・くつろぐ場面ほど隙が生まれるという洞察は、現代の旅行や出張にもそのまま通じます。ホテルで非常口を確認する習慣などは、まさにこの条の精神と同じです。油断しがちな場面で先に備えを済ませておく、実践的な用心深さの教えとして読めます。
この章句が説くこと
葉隠危機管理備え用心避難経路旅の心得
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