葉隠 / 聞書第十一
白刄持ちたる者に行逢ひ候時の事 向より物を云はゞ、此方よりも物を云はず。向より詞を出し候はゞ、此方何のかまひなしに、「通るべし。」と云ひて、行逢ひざまに、その儘詞を懸くべし。「行懸りたる事なれば、拔身を持つて通り候はゞ、其の分にては置きがたし。」と云ひて跡より追懸くべし。德有り。口傳。脇より見てよし。最前も道の眞中を通るべし。又行向ひ、其の儘さゝすべし。若し手向ひ候はゞ運次第なり。
新字:白刄持ちたる者に行逢ひ候時の事 向より物を云はゞ、此方よりも物を云はず。向より詞を出し候はゞ、此方何のかまひなしに、「通るべし。」と云ひて、行逢ひざまに、その儘詞を懸くべし。「行懸りたる事なれば、抜身を持つて通り候はゞ、其の分にては置きがたし。」と云ひて跡より追懸くべし。徳有り。口伝。脇より見てよし。最前も道の真中を通るべし。又行向ひ、其の儘さゝすべし。若し手向ひ候はゞ運次第なり。
書き下し
白刄(しらは)持ちたる者に行逢(ゆきあ)い候(そうろう)時の事。向(むこう)より物を云わば、此方よりも物を云わず。向より詞(ことば)を出し候わば、此方何のかまいなしに、「通るべし。」と云いて、行逢いざまに、その儘(まま)詞を懸くべし。「行懸(ゆきかか)りたる事なれば、拔身(ぬきみ)を持ちて通り候わば、其の分にては置きがたし。」と云いて跡(あと)より追懸(おいか)くべし。德(とく)有り。口傳(くでん)。脇(わき)より見てよし。最前(さいぜん)も道の眞中(まんなか)を通るべし。又行向(ゆきむか)い、その儘さすべし。若(も)し手向(てむか)い候わば運次第なり。
現代語訳
抜き身の刀を持った者に出くわしたときは、こちらから声をかけてはならない。相手が何か言ってきたら、こちらは黙っている。相手が言葉をかけてきたら、こちらは気にせず「通ります」と言い、すれ違いざまにそのまま言葉を続ける。「通りがかりのことだが、抜き身を持って通るからには、そのままにはしておけない」と言って、後ろから追いかけて斬るのだ。これには理がある。口伝である。脇から見ていてよい。最初から道の真ん中を通れ。そして向かい合ったら、そのまま斬りかかれ。もし相手が手向かいしてきたら、あとは運次第である。