顔氏家訓 / 風操
名位未高、如爲勛貴所逼、隱忍方便、速報取了、勿使煩重、感辱祖父。若沒、言須及者、則斂容肅坐、稱大門中、世父、叔父則稱從兄弟門中、兄弟則稱亡者子某門中、各以其尊卑輕重爲容色之節、皆變於常。
新字:名位未高、如為勛貴所逼、隠忍方便、速報取了、勿使煩重、感辱祖父。若没、言須及者、則斂容粛坐、称大門中、世父、叔父則称従兄弟門中、兄弟則称亡者子某門中、各以其尊卑軽重為容色之節、皆変於常。
書き下し
名位未だ高からずして、如し勲貴の逼る所と為らば、隠忍方便し、速やかに報じて取り了え、煩重ならしむること勿かれ。祖父を感辱するなり。若し没して、言うこと須らく及ぶべき者あらば、則ち容を斂め肅かに坐し、大門中と称す。世父・叔父は則ち従兄弟門中と称し、兄弟は則ち亡き者の子某門中と称す。各おの其の尊卑軽重を以て容色の節と為し、皆な常に変ず。
現代語訳
自分の地位がまだ高くないうちに、権勢ある者から詰め寄られたなら、こらえて適当に受け流し、速やかに返答して切り上げ、話を長引かせてはならない。長引けば祖先を辱めることになる。もし亡くなった人のことに触れざるを得ないときは、表情を引き締めて姿勢を正して座り、父については「大門中」と呼ぶ。伯父叔父については「従兄弟門中」と呼び、兄弟については「亡くなった者の子の某門中」と呼ぶ。それぞれ相手との尊卑と軽重によって表情の度合いを定め、いずれも平常とは変える。
解説
力関係が対等でない場での対処法です。地位の低いうちに権勢家から祖先のことを詰め寄られたら、こらえて手短に答えて切り上げる。長引かせるほうが祖先を辱める、という判断です。逃げではなく、消耗を最小にする選択として示されています。後半は、やむを得ず話す場合の作法。表情を引き締め、姿勢を正し、直接の名を出さずに間接の呼び方を使う。相手との関係の遠近で表情の度合いまで変える。避けられない場面での型を、あらかじめ決めておくという発想です。答えたくない質問への構えを事前に用意しておくと、その場の判断で消耗せずに済みます。
この章句が説くこと
隠忍方便速やかに報じて取り了う容を斂め粛かに坐す事前の型処世慎み
関連する章句
-
『顔氏家訓』風操先人に言い及べば、理として当に感慕すべし。古者の易しとする所、今人の難しとする所なり。江南の人事、已むを獲ざれば、閥閲を言うを須つも、必ず文翰を以てし、面論する者有ること罕なり。北人は何ぞ無くして便ち爾く話説し、相い訪問するに及ぶ。此くの如きの事は、人に加うべからず。人諸を己に加うれば、則ち当に之を避くべし。
-
『顔氏家訓』風操礼に曰く、「似たるを見て目瞿し、名を聞きて心瞿す」と。感触する所有れば、心眼に惻愴たり。若し従容平常の地に在らば、幸わくは須らく其の情を申ぶべきのみ。必ず避くべからざれば、亦た当に之を忍ぶべし。猶お伯叔兄弟の、酷だ先人に類するがごとし。終身腸を断ちて、之と絶つを得べけんや。又た「文に臨みては諱まず、廟中にては諱まず、君の所にては私諱無し」と。益ます知る、名を聞くには、須らく消息有るべく、必ずしも顛沛して走るを期せざるなり。
-
『顔氏家訓』風操凡そ親属の名称は、皆な須らく粉墨すべし。濫にすべからざるなり。風教無き者は、其の父已に孤なるに、外祖父母を呼ぶこと祖父母と同じくし、人をして其の聞くを喜ばざらしむ。面に質すと雖も、皆な当に外を加えて以て之を別つべし。父母の世叔父は、皆な当に其の次第を加えて以て之を別つべし。父母の世叔母は、皆な当に其の姓を加えて以て之を別つべし。父母の群従の世叔父母及び従祖父母は、皆な当に其の爵位若しくは姓を加えて以て之を別つべし。河北の士人は、皆な外祖父母を呼びて家公・家母と為す。江南の田里の間にも亦た之を言う。家を以て外に代うるは、吾が識る所に非ず。
-
『顔氏家訓』風操礼経に、父の遺書、母の杯圏は、其の手口の沢に感じて、読み用うるに忍びずとす。政に常に講習し、讎校繕写し、及び偏えに服用を加え、迹の思うべき有る者の為なるのみ。若し尋常の墳典、生を為すの什物ならば、安んぞ悉く之を廃すべけんや。既に読み用いずんば、散逸を容るる無かれ。惟だ当に緘保して、以て後世に留むべきのみ。
-
『顔氏家訓』風操今人の諱を避くるは、更に古よりも急なり。凡そ子を名づくる者は、当に孫の地を為すべし。吾が親識の中に、襄を諱み、友を諱み、同を諱み、清を諱み、和を諱み、禹を諱む者有り。交わり疏くして造次なれば、一座に百犯す。聞く者辛苦し、憀頼する無し。
-
『顔氏家訓』風操梁世に繋劾せらるる者は、子孫弟姪、皆な闕に詣ること三日、露跣にして陳謝す。子孫に官有れば、自ら陳べて職を解く。子は則ち草屩麤衣、蓬頭垢面にして、道路に周章し、執事を要候し、叩頭流血して、冤枉を申訴す。若し徒隷に配せらるれば、諸子並びに草庵を署の門に立て、敢えて宅に寧んぜず。動もすれば旬日を経、官司駆遣して、然る後に始めて退く。