顔氏家訓 / 兄弟
二親既歿、兄弟相顧、當如形之與影、聲之與響、愛先人之遺體、惜己身之分氣、非兄弟何念哉?兄弟之際、異於他人、望深則易怨、地親則易弭。譬猶居室、一穴則塞之、一隙則塗之、則無頹毀之慮、如雀鼠之不䘏、風雨之不防、壁陷楹淪、無可救矣。僕妾之爲雀鼠、妻子之爲風雨、甚哉!
新字:二親既歿、兄弟相顧、当如形之与影、声之与響、愛先人之遺体、惜己身之分気、非兄弟何念哉?兄弟之際、異於他人、望深則易怨、地親則易弭。譬猶居室、一穴則塞之、一隙則塗之、則無頹毀之慮、如雀鼠之不䘏、風雨之不防、壁陥楹淪、無可救矣。僕妾之為雀鼠、妻子之為風雨、甚哉!
書き下し
二親既に歿し、兄弟相い顧みるは、当に形と影と、声と響とのごとくなるべし。先人の遺体を愛し、己身の分気を惜しむ。兄弟に非ずして何をか念わんや。兄弟の際は、他人と異なる。望み深ければ則ち怨み易く、地親しければ則ち弭え易し。譬うれば猶お室に居るがごとし。一穴あらば則ち之を塞ぎ、一隙あらば則ち之を塗れば、則ち頽毀の慮無し。如し雀鼠を恤らず、風雨を防がざれば、壁陥り楹淪みて、救うべき無し。僕妾の雀鼠たる、妻子の風雨たる、甚だしきかな。
現代語訳
両親が亡くなった後、兄弟が互いを顧みるさまは、形と影、声と響きのようであるべきだ。亡き親の遺した体を愛し、自分自身から分かれた気を惜しむ。兄弟でなくて誰を思うのか。兄弟の間柄は他人とは違う。期待が深いので怨みやすく、間柄が親しいのですぐ収まりもする。たとえるなら家に住むようなものだ。穴が一つあいたら塞ぎ、隙間が一つできたら塗っておけば、崩れる心配はない。もし雀や鼠を放っておき、風雨を防がなければ、壁は落ち柱は沈んで、もう救えない。使用人が雀や鼠であり、妻子が風雨であるとは、なんとひどいことか。
解説
兄弟仲を家屋の維持として描いた一段です。要点は、期待が深いから怨みやすいという指摘と、小さな穴のうちに塞げという処方の二つです。親しい相手ほど、期待が高いぶん失望も大きい。しかし親しいぶん、早く手を打てば早く収まる。放置すると壁が落ち柱が沈む。侵食するのは外部の敵ではなく、日々そばにいる使用人の噂と、妻子の言い分——つまり悪意より生活の摩擦です。共同経営者や長年の同僚との関係も、決裂は大事件ではなく、放置された小さな不満の積み重ねから来ます。穴が小さいうちに塞ぐ、を関係の維持コストとして予算に入れておくことです。
この章句が説くこと
形と影声と響雀鼠を恤らず一穴あらば之を塞ぐ
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