顔氏家訓 / 勉學
夫學者貴能博聞也。郡國山川、官位姓族、衣服飲食、器皿制度、皆欲根尋、得其原本、至於文字、忽不經懷、己身姓名、或多乖舛、縱得不誤、亦未知所由。近世有人為子制名:兄弟皆山傍立字、而有名峙者、兄弟皆手傍立字、而有名機者、兄弟皆水傍立字、而有名凝者。名儒碩學、此例甚多。若有知吾鍾之不調、一何可笑。
新字:夫学者貴能博聞也。郡国山川、官位姓族、衣服飲食、器皿制度、皆欲根尋、得其原本、至於文字、忽不経懐、己身姓名、或多乖舛、縦得不誤、亦未知所由。近世有人為子制名:兄弟皆山傍立字、而有名峙者、兄弟皆手傍立字、而有名機者、兄弟皆水傍立字、而有名凝者。名儒碩学、此例甚多。若有知吾鍾之不調、一何可笑。
書き下し
夫れ学ぶ者は能く博聞なるを貴ぶなり。郡国山川、官位姓族、衣服飲食、器皿制度、皆な根尋して、其の原本を得んと欲す。文字に至りては、忽せにして懐を経ず。己が身の姓名すら、或いは乖舛多し。縦い誤らざるを得るも、亦た未だ由る所を知らず。近世に人有り子の為に名を制するに、兄弟皆な山の傍らに字を立つるに、而も峙と名づくる者有り。兄弟皆な手の傍らに字を立つるに、而も機と名づくる者有り。兄弟皆な水の傍らに字を立つるに、而も凝と名づくる者有り。名儒碩学すら、此の例甚だ多し。若し吾が鐘の調わざるを知る有らば、一に何ぞ笑うべき。
現代語訳
学ぶ者は広く聞き知ることを尊ぶ。郡や国、山や川、官位や姓氏、衣服や飲食、器物や制度、みな根本まで尋ねて、その由来を知ろうとする。ところが文字に至っては、なおざりにして心にかけない。自分自身の姓名でさえ、食い違いが多い。たとえ誤っていなくても、その由来を知らない。近ごろ子に名をつけるにあたって、兄弟がみな山偏の字なのに「峙」と名づけた者がいる。兄弟がみな手偏の字なのに「機」と名づけた者がいる。兄弟がみな水偏の字なのに「凝」と名づけた者がいる。名高い学者でさえ、こういう例がたいそう多い。もし自分の鐘の調子が狂っていると知る者がいたら、なんと笑うべきことか。
解説
広く学ぼうとする人が、自分の名前の由来すら知らない、という指摘です。挙げられる例が具体的で、兄弟の名を同じ偏で揃えるつもりが、一人だけ違う偏の字になっている。「峙」は山偏でなく土偏、「機」は手偏でなく木偏、「凝」は水偏でなくにすい。揃えているつもりで揃っていない。しかも本人は気づいていません。遠くのことを広く調べる人が、最も近いところを確かめていない。自分の会社の名前、部署の名前、自分の担当する製品の名前の由来を説明できるか。足元の確認は、遠くの調査より後回しになります。
この章句が説くこと
学ぶ者は能く博聞なるを貴ぶ己が身の姓名すら乖舛多し兄弟皆な山の傍らに字を立つ足元の確認学問
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