顔氏家訓 / 治家
太公曰:「養女太多、一費也。」陳蕃曰:「盗不過五女之門。」女之爲累、亦以深矣。然天生蒸民、先人傳體、其如之何?世人多不舉女、賊行骨肉、豈當如此、而望福於天乎?吾有疏親、家饒妓媵、誕育將及、便遣閽豎守之。體有不安、窺窗倚戶、若生女者、輒持將去、母隨號泣、使人不忍聞也。
新字:太公曰:「養女太多、一費也。」陳蕃曰:「盗不過五女之門。」女之為累、亦以深矣。然天生蒸民、先人伝体、其如之何?世人多不舉女、賊行骨肉、豈当如此、而望福於天乎?吾有疏親、家饒妓媵、誕育将及、便遣閽豎守之。体有不安、窺窗倚戸、若生女者、輒持将去、母随号泣、使人不忍聞也。
書き下し
太公曰く、「女を養うこと太だ多きは、一費なり」と。陳蕃曰く、「盗は五女の門を過ぎず」と。女の累たる、亦た以て深し。然れども天は蒸民を生じ、先人体を伝う。其れ之を如何せん。世人多く女を挙げず、賊を骨肉に行う。豈に当に此くの如くして、福を天に望むべけんや。吾に疏親有り、家に妓媵饒し。誕育将に及ばんとすれば、便ち閽豎を遣わして之を守らしむ。体に安からざる有れば、窓を窺い戸に倚る。若し女を生む者あらば、輒ち持将して去る。母随いて号泣し、人をして聞くに忍びざらしむるなり。
現代語訳
太公はいった。「娘をあまり多く養うのは、一つの出費である」。陳蕃はいった。「盗人も娘五人の家の門は素通りする」。娘が負担になるのは、確かに深刻である。しかし天は民を生み、先祖は体を伝えてきた。それをどうしようというのか。世の人は多く女児を育てず、我が子に害を加える。どうしてそんなことをして、天からの福を望めようか。私の遠縁に、家に侍女や側女の多い者がいた。出産が近づくと、門番を遣わして見張らせた。産婦の体に異変があれば、窓からのぞき戸口に寄りかかって待つ。もし女児が生まれれば、すぐに取り上げて連れ去った。母は後を追って泣き叫び、聞くに堪えない有様であった。
解説
当時の女児殺しを、顔之推が正面から否定した一段です。娘が経済的な負担になるという昔からの言い分を先に引き、それが深刻な問題であることは認めます。そのうえで「賊を骨肉に行う」——我が子に害を加えていると断じ、それで天の福を望めるかと問う。最後に自分の遠縁で実際に起きたことを、母の泣き声まで含めて記録しました。抽象的な議論で終わらせず、現場の音を書き残しています。理屈で反対するだけでは動かないことを、具体的な光景で示す。記録者としての判断がここにあります。
この章句が説くこと
女を養うこと太だ多きは一費なり賊を骨肉に行う母随いて号泣す現場の記録
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