顔氏家訓 / 音辭
南方水土和柔、其音清舉而切詣、失在浮淺、其辭多鄙俗。北方山川深厚、其音沈濁而鈋鈍、得其質直、其辭多古語。然冠冕君子、南方為優、閭里小人、北方為愈。易服而與之談、南方士庶、數言可辯、隔垣而聽其語、北方朝野、終日難分。而南染吳、越、北雜夷虜、皆有深弊、不可具論。
新字:南方水土和柔、其音清舉而切詣、失在浮浅、其辞多鄙俗。北方山川深厚、其音沈濁而鈋鈍、得其質直、其辞多古語。然冠冕君子、南方為優、閭里小人、北方為愈。易服而与之談、南方士庶、数言可弁、隔垣而聴其語、北方朝野、終日難分。而南染吳、越、北雑夷虜、皆有深弊、不可具論。
書き下し
南方は水土和柔にして、其の音は清挙にして切詣なり。失は浮浅に在り、其の辞は鄙俗多し。北方は山川深厚にして、其の音は沈濁にして鈋鈍なり。其の質直を得、其の辞は古語多し。然れども冠冕の君子は、南方を優と為し、閭里の小人は、北方を愈れりと為す。服を易えて之と談ぜば、南方の士庶は、数言にして弁ずべし。垣を隔てて其の語を聴かば、北方の朝野は、終日分かち難し。而して南は呉・越に染まり、北は夷虜を雑う。皆な深弊有り。具さには論ずべからず。
現代語訳
南方は水も土もやわらかく、その音は澄んで高く、切れがある。欠点は浅く浮ついていることで、その言葉は俗なものが多い。北方は山川が深く厚く、その音は沈んで濁り、鈍い。素朴さを得ているが、その言葉には古語が多い。とはいえ、身分ある君子は南方が優れており、市井の庶民は北方が優れている。服装を替えて話をさせれば、南方の士人と庶民は、数語で見分けがつく。垣根越しに話を聞けば、北方の朝廷の人と民間の人は、一日聞いても区別が難しい。しかし南は呉や越の言葉に染まり、北は異民族の言葉が混じっている。どちらにも深い弊害がある。詳しく論じることはできない。
解説
南北の言葉を、四つの角度から比較した一段です。音の質、欠点、語彙の性格、そして階層による差。とくに最後が鋭い。南方では服装を替えても数語で身分が分かり、北方では垣越しに聞いても朝廷の人と庶民の区別がつかない。言葉が階層の標識になっているかどうかという差です。顔之推はどちらが優れているとは決めません。上層は南、下層は北が優れている、と分けて評価する。そして両方に弊害があるとまとめます。比較するとき、一つの物差しで優劣を決めず、複数の角度から見て、それぞれの評価を分けて記す。
この章句が説くこと
南方は清挙にして切詣北方は沈濁にして鈋鈍冠冕の君子は南方を優とす角度ごとの評価
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