顔氏家訓 / 歸心
凡夫蒙蔽、不見未來、故言彼生與今非一體耳、若有天眼、鑒其念念隨滅、生生不斷、豈可不怖畏邪?又君子處世、貴能克己復禮、濟時益物。治家者欲一家之慶、治國者欲一國之良、僕妾臣民、與身竟何親也、而為勤苦修德乎?亦是堯、舜、周、孔虛失愉樂耳。一人修道、濟度幾許蒼生?免脫幾身罪累?幸熟思之!汝曹若觀俗計、樹立門戶、不棄妻子、未能出家、但當兼修戒行、留心誦讀、以為來世津梁。人生難得、無虛過也。
新字:凡夫蒙蔽、不見未来、故言彼生与今非一体耳、若有天眼、鑒其念念随滅、生生不断、豈可不怖畏邪?又君子処世、貴能克己復礼、済時益物。治家者欲一家之慶、治国者欲一国之良、僕妾臣民、与身竟何親也、而為勤苦修徳乎?亦是堯、舜、周、孔虚失愉楽耳。一人修道、済度幾許蒼生?免脫幾身罪累?幸熟思之!汝曹若観俗計、樹立門戸、不棄妻子、未能出家、但当兼修戒行、留心誦読、以為来世津梁。人生難得、無虚過也。
書き下し
凡夫は蒙蔽して、未来を見ず。故に彼の生と今と一体に非ずと言うのみ。若し天眼有りて、其の念念に随いて滅し、生生に断えざるを鑒れば、豈に怖畏せざるべけんや。又た君子の世に処るは、能く己に克ちて礼に復り、時を済い物を益するを貴ぶ。家を治むる者は一家の慶びを欲し、国を治むる者は一国の良きを欲す。僕妾臣民は、身と竟に何ぞ親しからんや。而るに勤苦して徳を修むるは。亦た是れ堯・舜・周・孔も虚しく愉楽を失うのみ。一人道を修むれば、幾許の蒼生を済度せん。幾身の罪累を免脱せん。幸わくは熟ら之を思え。汝曹若し俗計を観て、門戸を樹立し、妻子を棄てず、未だ出家する能わずんば、但だ当に兼ねて戒行を修め、心を誦読に留め、以て来世の津梁と為すべし。人生は得難し、虚しく過ぐる無かれ。
現代語訳
凡人は目が塞がれていて、未来を見ない。だから来世の生と今の生は一体ではないと言うだけである。もし天の眼があって、思いが一瞬ごとに滅び、生から生へと絶えず続いていくのを見たなら、どうして恐れずにいられようか。また君子がこの世に生きるのは、自分に打ち克って礼に返り、時世を救い人々の利益となることを尊ぶからである。家を治める者は一家の幸いを願い、国を治める者は一国の善さを願う。召使いや臣民は、自分自身と何の親しさがあろうか。それでも苦労して徳を修める。それでは堯・舜・周公・孔子も、むだに楽しみを失っただけということになる。一人が道を修めれば、どれほどの人々を救い渡せるか。どれほどの身の罪の累を免れられるか。どうかよくよく考えよ。お前たちがもし世俗の計を選び、家を立て、妻子を捨てず、出家できないのであれば、せめて戒行を兼ね修め、心を読誦に留めて、来世の橋渡しとせよ。人の生は得がたい。むなしく過ごしてはならない。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『顔氏家訓』歸心三世の事は、信にして徴有り。家世帰心す。軽慢すること勿かれ。其の間の妙旨は、諸の経論に具わる。復た此において、少しく賛述する能わず。但だ汝曹の猶お未だ牢固ならざるを懼れ、略ぼ重ねて勧誘するのみ。
-
『顔氏家訓』歸心抑ま又た之を論ぜん。道を求むる者は、身計なり。費を惜しむ者は、国謀なり。身計と国謀とは、両つながら遂ぐべからず。誠臣は主に徇いて親を棄て、孝子は家を安んじて国を忘る。各おの行い有るなり。儒に王侯に屈せずして其の事を高尚するもの有り、隠に王を譲り相を辞して世を山林に避くるもの有り。安んぞ其の賦役を計りて、以て罪人と為すべけんや。若し能く偕く黔首を化し、悉く道場に入らしめば、妙楽の世、禳佉の国の如く、則ち自然の稲米、無尽の宝蔵有らん。安んぞ田蚕の利を求めんや。
-
『顔氏家訓』歸心儒家の君子すら、尚お庖厨を離る。其の生を見て其の死に忍びず、其の声を聞きて其の肉を食らわず。高柴・折像は、未だ内教を知らざるも、皆な能く殺さず。此れ乃ち仁者の自然の用心なり。含生の徒は、命を愛せざるは莫し。殺を去るの事は、必ず勉めて之を行え。殺を好むの人は、死に臨みて報験あり、子孫殃禍あり。其の数甚だ多し。悉くは録する能わざるのみ。且く数条を末に示さん。
-
『顔氏家訓』歸心釈の二に曰く、夫れ信謗の徴は、影響の如き有り。耳に聞き目に見ること、其の事已に多し。或いは乃ち精誠深からず、業縁未だ感ぜず、時儻し差闌すれば、終に当に報を獲べきのみ。善悪の行いは、禍福の帰する所なり。九流百氏、皆な此の論を同じくす。豈に独り釈典のみ虚妄と為さんや。項橐・顔回の短折、伯夷・原憲の凍餒、盗跖・荘蹻の福寿、斉景・桓魋の富強も、若し之を先業に引き、以て後生を冀わば、更に通と為るのみ。如し善を行いて偶ま禍報に鐘り、悪を為して儻し福徴に値うを以て、便ち怨尤を生じ、即ち欺詭と為さば、則ち亦た堯・舜の云うも虚しく、周・孔の実ならざるなり。又た安くに依信して身を立てんと欲するや。
-
『顔氏家訓』歸心世に祝師及び諸の幻術有り、猶お能く火を履み刃を蹈み、瓜を種え井を移す。倏忽の間に、十変五化す。人力の為す所すら、尚お能く此くの如し。何ぞ況んや神通感応の、思量すべからず、千里の宝幢、百由旬の座、化して浄土と成り、踴きて妙塔を出だすをや。
-
『顔氏家訓』歸心世に癡人有り、仁義を識らず、富貴の並びに天命に由るを知らず。子の為に婦を娶るに、其の生資の足らざるを恨む。舅姑の尊を倚作し、蛇虺のごとき其の性、毒口もて誣を加え、忌諱を識らず、婦の父母を罵辱す。却って婦をして己身に孝ならざるを教え成し、他の恨みを顧みず。但だ己の子女を憐れみて、己の児婦を愛せず。此くの如きの人は、陰かに其の過ちを紀し、鬼其の算を奪う。慎みて与に隣を為すべからず。何ぞ況んや交結せんや。之を避けよ。