顔氏家訓 / 省事
上書陳事、起自戰國、逮於兩漢、風流彌廣。原其體度:攻人主之長短、諫諍之徒也、訐群臣之得失、訟訴之類也、陳國家之利害、對策之伍也、帶私情之與奪、遊說之儔也。總此四塗、賈誠以求位、鬻言以幹祿。或無絲毫之益、而有不省之困、幸而感悟人主、為時所納、初獲不貲之賞、終陷不測之誅、則嚴助、朱買臣、吾丘壽王、主父偃之類甚眾。良史所書、蓋取其狂狷一介、論政得失耳、非士君子守法度者所為也。
新字:上書陳事、起自戦国、逮於両漢、風流弥広。原其体度:攻人主之長短、諫諍之徒也、訐群臣之得失、訟訴之類也、陳国家之利害、対策之伍也、帯私情之与奪、遊説之儔也。総此四塗、賈誠以求位、鬻言以幹禄。或無糸毫之益、而有不省之困、幸而感悟人主、為時所納、初獲不貲之賞、終陥不測之誅、則厳助、朱買臣、吾丘寿王、主父偃之類甚眾。良史所書、蓋取其狂狷一介、論政得失耳、非士君子守法度者所為也。
書き下し
上書して事を陳ぶるは、戦国より起こり、両漢に逮びて、風流いよいよ広し。其の体度を原ぬるに、人主の長短を攻むるは、諫諍の徒なり。群臣の得失を訐くは、訟訴の類なり。国家の利害を陳ぶるは、対策の伍なり。私情の与奪を帯ぶるは、遊説の儔なり。此の四塗を総ぶるに、誠を賈りて以て位を求め、言を鬻ぎて以て禄を干む。或いは糸毫の益無くして、省みられざるの困有り。幸いにして人主を感悟せしめ、時の納るる所と為り、初めは不貲の賞を獲るも、終には不測の誅に陥る者は、則ち厳助・朱買臣・吾丘寿王・主父偃の類甚だ衆し。良史の書する所は、蓋し其の狂狷一介にして、政の得失を論ずるを取るのみ。士君子の法度を守る者の為す所に非ざるなり。
現代語訳
上書して意見を述べることは、戦国時代に始まり、両漢に至ってその風潮がいっそう広まった。その体裁をたどれば、君主の長短を攻めるのは諫言の類である。群臣の得失を暴くのは訴訟の類である。国家の利害を述べるのは対策の類である。私情による賛否を帯びるのは遊説の類である。この四つの道を総括すれば、誠意を売って地位を求め、言葉を売って俸禄を得ようとするものである。あるいは毛筋ほどの益もなく、顧みられない苦しみを味わうだけである。幸いにして君主を感服させ、時に用いられて、初めは計り知れない褒賞を得ても、最後には思いがけない誅罰に落ちる者は、厳助、朱買臣、吾丘寿王、主父偃の類など、たいそう多い。優れた史家が書き留めたのは、その人が偏屈で一途に、政治の得失を論じたところを取ったにすぎない。士たる者が法度を守るなかで行うことではない。
解説
この章句が説くこと
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葉隠・聞書第一或人(あるひと)覚悟の体(てい)覚書に、主君の身辺(しんぺん)勤むる者は別けて身持(みもち)覚悟慎むべきことなり。御側(おそば)の者の様子を見て、主人のたけを人が積(つも)るものなり。今は御機嫌悪し、序(つい)でになどと思うて居る内に、不図(ふと)御誤(おんあやまり)もあるべきことなり。又諫言(かんげん)は時を移さず申し上ぐべきことなり。仰せ出(いで)済みて後も、其の者に理を附け、少しづつもよき様に云いなせば、帰参(きさん)も早きものなり。又仕合せ(しあわせ)よき人には、無音(ぶいん)しても苦しからず、侍の義理なり。又科人(とがにん)をわろく云うは不義理の事なり。落ちぶれたる者には随分不憫(ふびん)を加え、何とぞ立ち直す様に致すべきこと、侍の義理なりと、これあり候。
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葉隠・聞書第一御縁組(ごえんぐみ)の時、何某(なにがし)一分(いちぶん)を申し達し候。この事、若き衆(しゅう)よく心得(こころえ)置くべき事なり。その身(み)気味(きみ)よく思うて、云(い)ふべき事を云うて腹切(はらき)りても本望(ほんもう)と思ふべし。よくよく了簡(りょうけん)候へ、何の益(えき)にも立たぬ事なり。我(われ)かやうの事を云うて腹切りても本望と思ふは、なるほど聞(きこ)えたり。曲者(くせもの)などと思ふは以(もっ)ての外(ほか)なる取違(とりちが)ひなり。まづ申し出でたる事その詮(せん)なく、我が身は引き取り、御養育(ごよういく)も仕(つかまつ)らず、追付(おっつ)け御死去(ごしきょ)なされ候に、御看病(ごかんびょう)も仕らず、残念千万(ざんねんせんばん)なり。気過(きす)ぎなる人は多分(たぶん)誤(あやま)る所なり。総(そう)じてその位(くらい)に至らずして諫言(かんげん)するは却(かえ)つて不忠(ふちゅう)なり。誠(まこと)の者ならば、我が存(ぞん)じ寄りたる事を似合(にあ)ひたる人に潜(ひそ)かに内談(ないだん)して、その人の思ひ寄りにさせて云へば、その事調(ととの)はるなり。これ忠節(ちゅうせつ)なり。もし、内談にてその人請(う)け合はずば、また外(ほか)の人にも内談し、とかく色々心遣(こころづか)ひをして、その事さへ調はるる様にすれば、大忠節(だいちゅうせつ)も知れぬ様にして居るものなり。幾人(いくにん)に内談しても、埒(らち)明かざる時は力に及ばず、その分(ぶん)にて打ち過ぎ、または起こし立て起こし立てすれば、多分叶(かな)ふものなり。我こそ曲者と云はるる名聞(みょうもん)ばかりにて、我が手柄(てがら)にするゆゑ調はざるなり。申し出でたる事益には立たず、人に難(なん)ぜられ、我が身を崩(くず)したる人数多(あまた)これあるなり。畢竟(ひっきょう)真(しん)の志(こころざし)なきゆゑなり。我が身を一向(いっこう)に捨て捨てて、主君の上(うえ)どうなりとも好き様にとさへ思へば、紛(まぎ)るる事はこれなく候なり。
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葉隠・聞書第一主人に諫言(かんげん)をするに色々あるべし。志(こころざし)の諫言は、脇(わき)に知れぬ様にするなり。御気(おんき)にさからわぬ様にして御癖(おんくせ)を直し申すものなり。細川頼之(ほそかわよりゆき)が忠義などなり。昔、御道中にて、御年寄(おとしより)何某(なにがし)承り、「某(それがし)、一命を捨てて申し上ぐべく候。段々御延引(ごえんいん)の上に脇寄(わきよ)りなど遊ばされ候節(せつ)、以ての外(ほか)然(しか)るべからず候。」と、諸人(しょにん)に向かい、「御暇乞(おいとまごい)仕り候。」と詞(ことば)を渡し、行水(ぎょうずい)、白帷子(しろかたびら)下着(したぎ)にて御前(ごぜん)へ罷出(まかりい)でられ、追付(おっつけ)退出、また諸人に向かい、「拙者(せっしゃ)申し上げ候儀、聞召(きこしめ)し分けられ本望至極(ほんもうしごく)、皆様へ一度御目に懸(かか)り候儀、不思議の仕合(しあわ)せ。」など広言(こうげん)申され候。これ皆、主人の非を顕(あらわ)し、我が忠を揚げ、威勢(いせい)を立つる仕事なり。多分、他国者(たこくもの)にこれあるなり。
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葉隠・聞書第一諫言(かんげん)の道に、我(われ)其の位(くらい)にあらずば、其の位の人に言はせて、御誤(おあやまり)直(なお)る様にするが大忠(たいちゅう)なり。此の階(かい)の為に諸人(しょにん)と懇意(こんい)する所なり。我が為にすれば追従(ついしょう)なり。一方(いっぽう)は我等(われら)荷(にな)ひ申す心入(こころいれ)からなり。成程(なるほど)なるものなり。
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