顔氏家訓 / 省事
銘金人云:『無多言、多言多敗、無多事、多事多患。』至哉斯戒也!能走者奪其翼、善飛者減其指、有角者無上齒、豐後者無前足、蓋天道不使物有兼焉也。古人云:『多為少善、不如執一、鼫鼠五能、不成伎術。』
新字:銘金人云:『無多言、多言多敗、無多事、多事多患。』至哉斯戒也!能走者奪其翼、善飛者減其指、有角者無上齒、豊後者無前足、蓋天道不使物有兼焉也。古人云:『多為少善、不如執一、鼫鼠五能、不成伎術。』
書き下し
金人に銘して云う、「多く言うこと無かれ、多く言えば多く敗る。多く事とすること無かれ、多く事とすれば多く患う」と。至れるかな斯の戒めや。能く走る者は其の翼を奪い、善く飛ぶ者は其の指を減らす。角有る者は上歯無く、後を豊かにする者は前足無し。蓋し天道は物をして兼ぬる有らしめざるなり。古人云う、「多く為して善きこと少なきは、一を執るに如かず。鼫鼠は五能あるも、伎術を成さず」と。
現代語訳
金の人形に刻まれた銘にいう。「多く言うな。多く言えば多く失敗する。多く事を起こすな。多く事を起こせば多く憂いが生じる」。この戒めは至極である。よく走る者はその翼を奪われ、よく飛ぶ者はその指を減らされる。角のある者には上の歯がなく、後肢の豊かな者には前足がない。思うに天の道は、一つのものに兼ね備えさせないのである。昔の人は言った。「多くのことをして善いものが少ないのは、一つを守るのに及ばない。鼫鼠には五つの能力があるが、どれも技術として成り立たない」。
解説
省事篇の原理です。言葉も仕事も、多ければ多いほど失敗と憂いが増える。根拠を自然界に求めます。走るのが速い獣には翼がなく、飛ぶ鳥には指が少なく、角があれば上の歯がない。天は一つのものに全部を与えない。だから人も兼ね備えようとするな、という論法です。鼫鼠は飛べる、木に登れる、泳げる、穴を掘れる、走れるという五つの能力を持ちますが、どれも中途半端で技術になっていない。多能であることと、役に立つことは別だという指摘です。事業でも個人でも、手を広げることの正当化に「相乗効果」が使われますが、五つできて一つも技術になっていない状態がその先にあります。
この章句が説くこと
多く言えば多く敗る天道は物をして兼ぬる有らしめず鼫鼠五能一を執る因果応報
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