顔氏家訓 / 省事
近世有兩人、朗悟士也、性多營綜、略無成名、經不足以待問、史不足以討論、文章無可傳於集錄、書跡未堪以留愛翫、卜筮射六得三、醫藥治十差五、音樂在數十人下、弓矢在千百人中、天文、畫繪、棋博、鮮卑語、胡書、煎胡桃油、煉錫為銀、如此之類、略得梗概、皆不通熟。惜乎、以彼神明、若省其異端、當精妙也。
新字:近世有両人、朗悟士也、性多営綜、略無成名、経不足以待問、史不足以討論、文章無可伝於集録、書跡未堪以留愛翫、卜筮射六得三、医薬治十差五、音楽在数十人下、弓矢在千百人中、天文、画絵、棋博、鮮卑語、胡書、煎胡桃油、煉錫為銀、如此之類、略得梗概、皆不通熟。惜乎、以彼神明、若省其異端、当精妙也。
書き下し
近世に両人有り、朗悟の士なり。性営綜多く、略ぼ成名無し。経は以て問を待つに足らず、史は以て討論するに足らず、文章は集録に伝うべき無く、書跡は未だ以て留めて愛翫するに堪えず。卜筮は六を射て三を得、医薬は十を治めて五を差やす。音楽は数十人の下に在り、弓矢は千百人の中に在り。天文・画絵・棋博・鮮卑語・胡書・胡桃油を煎ずること・錫を煉りて銀と為すこと、此くの如きの類、略ぼ梗概を得るも、皆な通熟せず。惜しいかな、彼の神明を以て、若し其の異端を省かば、当に精妙なるべし。
現代語訳
近ごろ二人の人物がいた。明晰で聡明な士であった。性質として多くのことに手を出し、ほとんど名を成すことがなかった。経書は質問に答えるには足りず、史書は議論するには足りず、文章は文集に載せるほどのものがなく、筆跡は保存して愛でるに堪えなかった。占いは六つのうち三つ当たる程度、医薬は十人治療して五人を治す程度。音楽は数十人より下、弓は数百千人の中ほど。天文、絵画、囲碁双六、鮮卑語、胡の文字、胡桃油の精製、錫を練って銀にすること。こういう類のことは、あらましは分かっていても、どれも熟達していない。惜しいことだ。あれほどの明晰さをもって、もし脇道を減らしていたら、精妙の域に達したはずである。
解説
多才な人の失敗を、能力ごとの水準まで数え上げた一段です。占いは五割、医療は五割、音楽は数十人中の下位、弓は数百人の中位。どれも「できる」が「使える」に届かない。しかも顔之推はこの二人を「朗悟の士」——明晰で聡明だったと認めています。能力が低かったのではなく、配分を誤った。「若し其の異端を省かば、当に精妙なるべし」——脇道を削っていれば、精妙の域に達したはずだ、という惜しみ方が切実です。器用な人ほどこの罠にかかります。何をやめるかを決めるのは、何を始めるかを決めるより難しく、しかも結果への影響は大きい。
この章句が説くこと
性営綜多く略ぼ成名無し六を射て三を得其の異端を省く配分の誤り
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