顔氏家訓 / 名實
有一士族、讀書不過二三百卷、天才鈍拙、而家世殷厚、雅自矜持、多以酒犢珍玩、交諸名士、甘其餌者、遞共吹噓。朝廷以為文華、亦嘗出境聘。東萊王韓晉明篤好文學、疑彼制作、多非機杼、遂設燕言、面相討試。竟日歡諧、辭人滿席、屬音賦韻、命筆為詩、彼造次即成、了非向韻。眾客各自沈吟、遂無覺者。
新字:有一士族、読書不過二三百巻、天才鈍拙、而家世殷厚、雅自矜持、多以酒犢珍玩、交諸名士、甘其餌者、逓共吹噓。朝廷以為文華、亦嘗出境聘。東萊王韓晉明篤好文学、疑彼制作、多非機杼、遂設燕言、面相討試。竟日歓諧、辞人満席、属音賦韻、命筆為詩、彼造次即成、了非向韻。眾客各自沈吟、遂無覚者。
書き下し
一士族有り、書を読むこと二三百巻に過ぎず。天才鈍拙なり。而して家世殷厚にして、雅より自ら矜持す。多く酒犢珍玩を以て、諸名士に交わる。其の餌に甘んずる者、逓いに共に吹嘘す。朝廷以て文華と為し、亦た嘗て境を出でて聘せしむ。東萊王の韓晋明は篤く文学を好む。彼の製作の、多くは機杼に非ざるを疑う。遂に燕言を設け、面のあたり相い討試す。日を竟えて歓諧し、辞人席に満つ。音に属し韻を賦し、筆に命じて詩を為らしむ。彼は造次にして即ち成すも、了に向の韻に非ず。衆客各おの自ら沈吟し、遂に覚る者無し。
現代語訳
ある士族がいた。読んだ書物は二、三百巻にすぎず、生まれつきの才は鈍く拙かった。しかし家は代々豊かで、もともと自分を高く持していた。しばしば酒や牛や珍しい玩具をもって多くの名士と交わった。その餌に甘んじた者たちは、代わる代わる彼を吹聴した。朝廷は彼を文才ある者とみなし、国外へ使者としても出した。東萊王の韓晋明は文学を深く好んでいた。彼の作品の多くが自分の織り機から出たものではないと疑った。そこで宴を設け、面と向かって試すことにした。一日じゅう和やかに過ごし、文人が席に満ちた。音を合わせ韻を割り当て、筆を執らせて詩を作らせた。彼はたちまち作り上げたが、まったく指定した韻になっていなかった。客たちはそれぞれ考え込んで、誰も気づかなかった。
解説
この章句が説くこと
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『顔氏家訓』名實鄴下に一少年有り、出でて襄国の令と為る。頗る自ら勉篤たり。公事懐いを経れば、毎に撫恤を加え、以て声誉を求む。凡そ兵役を遣わすに、手を握りて離を送り、或いは梨棗餅餌を齎し、人人に贈別して云う、「上命相い煩わす。情に忍びざる所なり。道路の飢渇、此を以て思わるべし」と。民庶之を称し、口に容れず。泗州の別駕に遷るに及び、此の費日に広く、常には周くすべからず。一たび偽情有れば、途に触れて継ぎ難く、功績遂に損敗せり。
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『顔氏家訓』名實近ごろ大貴有り、孝を以て声に著る。前後の居喪に、哀毀制に踰ゆ。亦た以て人に高しとするに足る。而るに嘗て苫塊の中において、巴豆を以て臉に塗り、遂に瘡を成さしめ、哭泣の過ぐるを表す。左右の童豎、之を掩う能わず。益ます外人をして其の居処飲食、皆な不信と為さしむ。一偽を以て百誠を喪う者は、乃ち名を貪りて已まざるが故なり。
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『顔氏家訓』名實吾世人を見るに、清名登りて金貝入り、信誉顕れて然諾虧く。後の矛戟の、前の干櫓を毀つを知らざるなり。虙子賤云う、「此に誠なる者は彼に形わる」と。人の虚実真偽は心に在り。迹に見れざるは無し。但だ之を察すること未だ熟せざるのみ。一たび察するの鑑する所と為れば、巧偽は拙誠に如かず。之を承くるに羞を以てすること大なり。伯石の卿を譲り、王莽の政を辞するは、爾の時に当たりては、自ら巧密なりと以えり。後人之を書して、万代に留伝す。骨寒く毛豎つと為すべきなり。
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『顔氏家訓』名實子弟の文章を治点して、以て声価と為すは、大いなる弊事なり。一には則ち常には継ぐべからず、終に其の情を露わす。二には則ち学ぶ者憑る有り、益ます精励せず。
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『顔氏家訓』文章学問に利鈍有り、文章に巧拙有り。鈍学も功を累ぬれば、精熟を妨げず。拙文は思を研ぐも、終に蚩鄙に帰す。但だ学士と成らば、自ら人と為るに足る。必ず天才乏しくば、強いて筆を操ること勿かれ。吾世人を見るに、至って才思無きに、自ら清華と謂い、醜拙を流布する者、亦た以て衆し。江南に号して詅癡符と為す。近ごろ并州に在り、一士族有り、好んで笑うべき詩賦を為り、邢・魏の諸公を誂撇す。衆共に嘲弄し、虚しく相い賛説す。便ち牛を撃ち酒を釃し、声誉を招延す。其の妻は、明鑒の婦人なり。泣きて之を諫む。此の人嘆じて曰く、「才華は妻子の容るる所と為らず。何ぞ況んや行路をや」と。死に至るまで覚らず。自ら之を見るを明と謂う。此れ誠に難きかな。
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『顔氏家訓』名實名の実におけるは、猶お形の影におけるがごときなり。徳芸周厚なれば、則ち名必ず善し。容色姝麗なれば、則ち影必ず美なり。今身を修めずして令名を世に求むる者は、猶お貌甚だ悪くして妍影を鏡に責むるがごときなり。上士は名を忘れ、中士は名を立て、下士は名を窃む。名を忘るる者は、道を体し徳に合し、鬼神の福佑を享く。名を求むる所以に非ざるなり。名を立つる者は、身を修め行いを慎み、栄観の顕れざるを懼る。名を譲る所以に非ざるなり。名を窃む者は、貌を厚くし奸を深くし、浮華の虚構を干む。名を得る所以に非ざるなり。