顔氏家訓 / 文章
吾家世文章、甚為典正、不從流俗、梁孝元在蕃邸時、撰西府新文、訖無一篇見錄者、亦以不偶於世、無鄭、衛之音故也。有詩賦銘誄書表啟疏二十卷、吾兄弟始在草土、並未得編次、便遭火蕩盡、竟不傳於世。銜酷茹恨、徹於心髓!操行見於梁史文士傳及孝元懷舊志。
新字:吾家世文章、甚為典正、不従流俗、梁孝元在蕃邸時、撰西府新文、訖無一篇見録者、亦以不偶於世、無鄭、衛之音故也。有詩賦銘誄書表啟疏二十巻、吾兄弟始在草土、並未得編次、便遭火蕩尽、竟不伝於世。銜酷茹恨、徹於心髄!操行見於梁史文士伝及孝元懐旧志。
書き下し
吾が家世の文章は、甚だ典正たり。流俗に従わず。梁の孝元、蕃邸に在りし時、西府新文を撰す。訖に一篇の録せらるる者無し。亦た世に偶わず、鄭・衛の音無きを以ての故なり。詩賦銘誄書表啓疏二十巻有り。吾が兄弟始めて草土に在りて、並びに未だ編次するを得ず。便ち火に遭いて蕩尽す。竟に世に伝わらず。酷を銜み恨みを茹らい、心髄に徹す。操行は梁史の文士伝及び孝元の懐旧志に見ゆ。
現代語訳
我が家に代々伝わる文章は、たいそう正統で端正であり、世間の流行には従わなかった。梁の元帝が藩の邸にいたとき、『西府新文』を編纂した。ついに一篇も採録されなかった。それも世に合わず、鄭や衛の俗な調べがなかったからである。父には詩・賦・銘・誄・書・表・啓・疏の二十巻があった。私たち兄弟は喪に服したばかりで、まだ整理し順序を付けることができないでいた。そのうちに火災に遭ってすべて焼き尽くされた。ついに世に伝わらなかった。無念を噛みしめ恨みを飲み込む思いは、骨の髄まで徹している。父の人となりと行いは、梁の史書の文士伝と、元帝の『懐旧志』に見える。
解説
父の遺した二十巻が、整理される前に焼けて失われた話です。前半で、家の文章が流行に従わず一篇も採録されなかったことを、誇りとも恨みともつかない調子で書いています。後半は痛切で、喪に服したばかりで手が回らないうちに火事に遭った。「酷を銜み恨みを茹らい、心髄に徹す」——顔氏家訓で最も感情のこもった一句です。ここには二つの教訓があります。評価されないことと、失われることは別の痛みだということ。そして、整理を後回しにしている間に消えるものがあるということ。手元の記録や資産の整理を「落ち着いてから」と先送りしていないか。落ち着く前に火が来ることがあります。
この章句が説くこと
家世の文章甚だ典正火に遭いて蕩尽す酷を銜み恨みを茹らう整理の先送り
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