顔氏家訓 / 慕賢
侯景初入建業、臺門雖閉、公私草擾、各不自全。太子左衛率羊侃坐東掖門、部分經略、一宿皆辦、遂得百餘日抗拒兇逆。於時、城內四萬許人、王公朝士、不下一百、便是恃侃一人安之、其相去如此。古人云:「巢父、許由、讓於天下、市道小人、爭一錢之利。」亦已懸矣。
新字:侯景初入建業、台門雖閉、公私草擾、各不自全。太子左衛率羊侃坐東掖門、部分経略、一宿皆辦、遂得百余日抗拒兇逆。於時、城内四万許人、王公朝士、不下一百、便是恃侃一人安之、其相去如此。古人云:「巣父、許由、譲於天下、市道小人、争一銭之利。」亦已懸矣。
書き下し
侯景初めて建業に入るや、台門閉ずと雖も、公私草擾して、各おの自ら全からず。太子左衛率の羊侃、東掖門に坐し、部分経略して、一宿にして皆な辦ず。遂に百余日兇逆に抗拒するを得たり。時に、城内四万許りの人、王公朝士、一百を下らず。便ち是れ侃一人を恃みて之を安んず。其の相い去ること此くの如し。古人云う、「巣父・許由は天下を譲る。市道の小人は一銭の利を争う」と。亦た已に懸かなり。
現代語訳
侯景がはじめて建業に攻め入ったとき、宮城の門は閉ざされていたが、公私ともに騒然として、誰も自分を保てなかった。太子左衛率の羊侃は東掖門に座って、部署を分け作戦を立て、一晩ですべてを整えた。そのおかげで百日余りも逆賊に抵抗できた。当時、城内には四万人ほどがおり、王侯や朝廷の士も百人を下らなかった。それがつまり、羊侃ひとりを頼りにして落ち着いたのである。人の隔たりとはこれほどのものだ。昔の人は言った。「巣父や許由は天下を譲った。市場の小人は一銭の利を争う」。まことにかけ離れている。
解説
四万人の城で、百人以上の高官がいながら、ひとりの働きで百日持ちこたえた話です。羊侃がしたことは、部署を分けて作戦を立て、一晩でまとめること。特別な武勇ではなく、混乱の中で最初に構造を作ったことが効きました。危機の場では、勇気より段取りが人を落ち着かせます。顔之推はこれを「其の相い去ること此くの如し」——人の差はこれほどだ、と言います。同じ場にいた百人の高官と羊侃を分けたのは、地位でも情報でもなく、動いたかどうかでした。危機のときに誰も動けない状況で、最初に紙を広げて割り振りを始める人がいるかどうか。それが組織の生死を分けます。
この章句が説くこと
羊侃部分経略して一宿に皆な辦ず侃一人を恃む危機の段取り率先垂範
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