学問のすゝめ / 十六編・手近く独立を守ること・主人は品物の支配を受けてこれに奴隷使せらるる
この着物に不似合いなりとてかの羽織を作り、この衣裳に不相当なりとてかの煙草入れを買い、衣服すでに備われば屋宅の狭きも不自由となり、屋宅の普請はじめて落成すれば宴席を開かざるもまた不都合なり、鰻飯は西洋料理の媒酌となり、西洋料理は金の時計の手引きとなり、比より彼に移り、一より十に進み、一進また一進、段々限りあることなし。この趣を見れば一家の内には主人なきがごとく、一身の内には精神なきがごとく、物よく人をして物を求めしめ、主人は品物の支配を受けてこれに奴隷使せらるるものと言うべし。
書き下し
この着物に不似合いなりとてかの羽織を作り、この衣裳に不相当なりとてかの煙草入れを買い、衣服すでに備われば屋宅の狭きも不自由となり、屋宅の普請はじめて落成すれば宴席を開かざるもまた不都合なり、鰻飯は西洋料理の媒酌となり、西洋料理は金の時計の手引きとなり、比より彼に移り、一より十に進み、一進また一進、段々限りあることなし。この趣を見れば一家の内には主人なきがごとく、一身の内には精神なきがごとく、物よく人をして物を求めしめ、主人は品物の支配を受けてこれに奴隷使せらるるものと言うべし。
現代語訳
この着物に不似合いだといってあの羽織を作り、この衣装に不相応だといってあの煙草入れを買い、衣服がすでに揃えば家の狭さも不自由になり、家の普請がやっと落成すれば宴席を開かないのもまた不都合になる。鰻飯は西洋料理の仲立ちとなり、西洋料理は金の時計の手引きとなり、これからあれに移り、一から十へ進み、一歩また一歩と、次第に限りがありません。このさまを見れば、一家の内には主人がないようで、一身の内には精神がないようで、物がよく人に物を求めさせ、主人は品物の支配を受けてこれに奴隷のように使われるものと言うべきです。
解説

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関連する章句
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尉繚子・戰權兵法に曰く、「千人にして権を成し、万人にして武を成す。権先づ人に加ふる者は、敵力交へず。武先づ人に加ふる者は、敵威接せず」と。故に兵は先を貴ぶ。此に勝てば、則ち彼に勝つ。此に勝たざれば、則ち彼に勝たず。凡そ我往けば則ち彼来たり、彼来たれば則ち我往き、相勝敗を為す、此れ戦の理の然るなり。夫れ精誠は神明に在り、戦権は道の極まる所に在り。有る者は之を無くし、無き者は之を有らしむ、安んぞ之を信ずる所あらん。先王の伝聞する所の者は、正に任じ詐を去り、其の慈順を存し、決して留刑無し。故に道を知る者は、必ず先づ止まるを知らざるの敗を図る、悪んぞ必ず往きて功有るに在らんや。軽く進みて戦を求むれば、敵復た止まるを図り、我往きて敵勝を制す。故に兵法に曰く、「求めて之に従ひ、見て之に加へ、主人敢へて当たらざるに之を陵げば、必ず其の権を喪ふ」と。凡そ奪はるる者は気無く、恐るる者は守るべからず、敗るる者は人無し、兵に道無ければなり。意往きて疑はざれば、則ち之に従ふ。敵を奪ひて前無ければ、則ち之に加ふ。明らかに視て高く居れば、則ち之を威す。兵の道極まれり。其の言謹み無ければ、偸みて失はしむ。其の陵犯節無ければ、破る。水のごとく潰し雷のごとく撃てば、三軍乱る。必ず其の危ふきを安んじ、其の患を去り、智を以て之を決す。之を高くするに廊廟の論を以てし、之を重くするに受命の論を以てし、之を鋭くするに踰垠の論を以てすれば、則ち敵国戦はずして服すべし。
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李衛公問対・卷上兵を善く用うる者は、先ず測る可からざるを為せば、則ち敵は其の之く所に乖く。
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尉繚子・戰威善く兵を用うる者は、能く人を奪いて人に奪われず。
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『新論』長計是れ所謂其の之く所を乖く者にして、実を変じて虚と為し、虚を転じて実と為す。此くの如くなれば、則ち神聖の夷狄を御する所以の略、彼倒用するを得ずして、彼の我を擾す所以の術、我将に之を倒用せんとす。然る後操縦の権、我より之を制す。廟謨既に定まり、上下心を同じくし、千塗万轍、必ず是の道に由りて変ぜず。是に於てか我の夷狄を御する所以の者は、即ち神聖の夷狄を御する所以にして、内に一定の略有りて、外に乗ずべきの虚無し。黠虜をして千群我を窺はしむと雖も、将た何を以て我が辺陲に陸梁するを得んや。(大猷公嘗て訳官島野兼了なる者を天竺に遣はす。兼了荷蘭の賈舶に乗り、諸国を周流し、遂に東海に往くこと三千里、一大国を得たり。以為へらく是の国宜しく神州に属すべしと。因りて碑を立てて題して日本国中と曰ふ。当時の規模の宏遠なること、亦見るべきなり。海東三千里なる者は、疑ふらくは即ち西夷の所謂亜墨利加洲なる者ならん。)
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孫子・虚実篇孫子曰く、戦いを善くする者は、人を致して人に致されず。
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李衛公問対・卷中千章万句、『人を致して人に致されず』を出でざるのみ。