学問のすゝめ / 十四編・世話の字の義・名を買わんとして実を失うもの
この類を求めて例を挙ぐればいちいち計うるに遑あらず。この「世話」の字義は経済論のもっとも大切なる箇条なれば、人間の渡世において、その職業の異同事柄の軽重にかかわらず、常にこれに注意せざるべからず。あるいはこの議論はまったく算盤ずくにて薄情なるに似たれども、薄くすべきところを無理に厚くせんとし、あるいはその実の薄きを顧みずしてその名を厚くせんとし、かえって人間の至情を害して世の交際を苦々しくするがごときは、名を買わんとして実を失うものと言うべし。
書き下し
この類を求めて例を挙ぐればいちいち計うるに遑あらず。この「世話」の字義は経済論のもっとも大切なる箇条なれば、人間の渡世において、その職業の異同事柄の軽重にかかわらず、常にこれに注意せざるべからず。あるいはこの議論はまったく算盤ずくにて薄情なるに似たれども、薄くすべきところを無理に厚くせんとし、あるいはその実の薄きを顧みずしてその名を厚くせんとし、かえって人間の至情を害して世の交際を苦々しくするがごときは、名を買わんとして実を失うものと言うべし。
現代語訳
この類を求めて例を挙げれば一つ一つ数え切れません。この世話という字の意味は経済論の最も大切な箇条ですから、人が世を渡るにあたって、その職業の違いや事柄の軽重にかかわらず、常にこれに注意しなければなりません。あるいはこの議論はまったく算盤ずくで薄情なようですが、薄くすべきところを無理に厚くしようとし、あるいは実際が薄いのを顧みずに名目だけ厚くしようとして、かえって人の本来の情を害し世の交わりを気まずくするようなのは、名を買おうとして実を失うものと言うべきです。
解説
この議論が冷たく見えることを自ら認めたうえで、反論が置かれます。薄くてよいところを無理に厚くし、実がないのに名目だけ厚くすれば、かえって関係が気まずくなる、と。無理な親切が人の情を害するという指摘です。名を買って実を失う、という言い方で、見せかけの厚意が本当の付き合いを壊すことが示され、算盤ずくの議論に人情の裏づけが与えられます。
この章句が説くこと
算盤薄情名実無理関係
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