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学問のすゝめ / 五編・明治七年一月一日の詞・進まざる者は必ず退き

しかのみならず今日に至りては、なおこれよりはなはだしきことあり。おおよそ世間の事物、進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む。進まず退かずして潴滞する者はあるべからざるの理なり。今、日本の有様を見るに、文明の形は進むに似たれども、文明の精神たる人民の気力は日に退歩に赴けり。請う、試みにこれを論ぜん。在昔、足利・徳川の政府においては民を御するにただ力を用い、人民の政府に服するは力足らざればなり。力足らざる者は心服するにあらず、ただこれを恐れて服従の容をなすのみ。今の政府はただ力あるのみならず、その智恵すこぶる敏捷にして、かつて事の機に後るることなし。一新の後、いまだ十年ならずして、学校・兵備の改革あり、鉄道・電信の設あり、その他石室を作り、鉄橋を架する等、その決断の神速なるとその成功の美なるとに至りては、実に人の耳目を驚かすに足れり。

書き下し

しかのみならず今日に至りては、なおこれよりはなはだしきことあり。おおよそ世間の事物、進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む。進まず退かずして潴滞する者はあるべからざるの理なり。今、日本の有様を見るに、文明の形は進むに似たれども、文明の精神たる人民の気力は日に退歩に赴けり。請う、試みにこれを論ぜん。在昔、足利・徳川の政府においては民を御するにただ力を用い、人民の政府に服するは力足らざればなり。力足らざる者は心服するにあらず、ただこれを恐れて服従の容をなすのみ。今の政府はただ力あるのみならず、その智恵すこぶる敏捷にして、かつて事の機に後るることなし。一新の後、いまだ十年ならずして、学校・兵備の改革あり、鉄道・電信の設あり、その他石室を作り、鉄橋を架する等、その決断の神速なるとその成功の美なるとに至りては、実に人の耳目を驚かすに足れり。

現代語訳

それだけでなく今日に至っては、なおこれより甚だしいことがあります。およそ世の物事は、進まない者は必ず退き、退かない者は必ず進む。進みも退きもせずに滞るものはありえません。今、日本のありさまを見ると、文明の形は進んでいるように見えますが、文明の精神である人民の気力は日に日に後退しています。試みにこれを論じましょう。昔、足利や徳川の政府は民を治めるのにただ力を用い、人民が政府に服したのは力が足りなかったからです。力が足りない者は心から服したのではなく、ただ恐れて服従の形をとるだけです。今の政府はただ力があるだけでなく、その知恵も非常に機敏で、かつて事の機を逃したことがありません。維新の後、まだ十年も経たないのに、学校と軍備の改革があり、鉄道と電信の設置があり、その他石造りの建物を作り鉄橋を架けるなど、その決断の速さと成功の見事さに至っては、実に人の耳目を驚かせるに足ります。

解説

進むか退くかしかなく、止まっていることはありえないという原理が先に置かれます。形は進み、精神は退く。この食い違いが五編の診断です。そのうえで昔と今の政府が比べられる。昔は力だけで従わせたが、今は知恵も速さもある。維新後十年足らずの成果が率直に称賛されており、その称賛が次の段でそのまま問題に転じる構えになっています。

この章句が説くこと

進退精神政府速さ

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