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福沢諭吉小品集 / 故社員の一言今尚精神・第2段

斯る世上の有様なれば、在江戸の人にして苟も横浜在留の西洋人に知る者あれば、西洋人も亦私に之を保護せんとするの情を抱き、或は仮に某国の籍に入れと云う者あり、或はその印鑑を与えて万一危急のときはこの印鑑を官軍に示して一時を免かれよと云う者あり。何れも皆深切の情に出ることにして、敢て奸策とは云うべからず。我義塾の如きも固より外人に知る者多ければその顧る所と為りて、或る日某氏より態と印鑑を贈り来りしは、全くその友情に出たるものより外ならざるなり。

書き下し

斯る世上の有様なれば、在江戸の人にして苟も横浜在留の西洋人に知る者あれば、西洋人も亦私に之を保護せんとするの情を抱き、或は仮に某国の籍に入れと云う者あり、或はその印鑑を与えて万一危急のときはこの印鑑を官軍に示して一時を免かれよと云う者あり。何れも皆深切の情に出ることにして、敢て奸策とは云うべからず。我義塾の如きも固より外人に知る者多ければその顧る所と為りて、或る日某氏より態と印鑑を贈り来りしは、全くその友情に出たるものより外ならざるなり。

現代語訳

このような世の中の有様ですから、江戸にいる人で、もし横浜に在留する西洋人を知っている者があれば、西洋人もまたひそかにこれを保護しようという情を抱き、あるいは仮にある国の籍に入れと言う者があり、あるいはその印鑑を与えて、万一危急のときはこの印鑑を官軍に示して一時を免れよ、と言う者もありました。いずれも皆、深い親切の情から出たことであり、決して奸策とは言えません。我が義塾なども、もとより外国人に知り合いが多いので、その配慮を受けることになり、ある日、ある人からわざわざ印鑑を贈ってきたのは、まったくその友情から出たものにほかなりません。

解説

短い一段ですが、背景を整えます。江戸の混乱の中、横浜の西洋人が知人を保護しようと、国籍を仮に与えたり、印鑑を渡して官軍に示すよう勧めたりしたと語られます。福沢は、これが奸策ではなく友情から出た親切だったと明記しており、外国人の善意を疑っていない点が見えます。そのうえで次段の小幡仁三郎の一言が、この親切をどう受け止めるかという、より高い基準を示します。善意の申し出と、守るべき筋とが衝突する場面への導入です。

この章句が説くこと

印鑑外国人保護友情慶応義塾官軍

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