淮南子 / 泰族訓
故無其性,不可教訓;有其性,無其養,不能遵道。繭之性為絲,然非得工女煮以熱湯而抽其統紀,則不能成絲;卵之化為雛,非慈雌嘔暖覆伏,累日積久,則不能為雛;人之性有仁義之資,非聖人為之法度而教導之,則不可使向方。故先王之教也,因其所喜以勸善,因其所惡以禁奸。故刑罰不用,而威行如流;政令約省,而化耀如神。故因其性則天下聽從,拂其性則法縣而不用。
新字:故無其性,不可教訓;有其性,無其養,不能遵道。繭之性為糸,然非得工女煮以熱湯而抽其統紀,則不能成糸;卵之化為雛,非慈雌嘔暖覆伏,累日積久,則不能為雛;人之性有仁義之資,非聖人為之法度而教導之,則不可使向方。故先王之教也,因其所喜以勧善,因其所悪以禁奸。故刑罰不用,而威行如流;政令約省,而化耀如神。故因其性則天下聴従,払其性則法県而不用。
書き下し
故に其の性無くんば、教訓す可からず。其の性有りて、其の養無くんば、道に遵う能わず。繭の性は絲と爲る。然れども工女の熱湯を以て煮て其の統紀を抽くを得るに非ざれば、則ち絲と成る能わず。卵の化して雛と爲るは、慈雌の嘔暖覆伏し、日を累ね久しきを積むに非ざれば、則ち雛と爲る能わず。人の性に仁義の資有るも、聖人の之が法度を爲して之を教導するに非ざれば、則ち方に向かわしむ可からず。故に先王の教うるや、其の喜ぶ所に因りて以て善を勸め、其の惡む所に因りて以て奸を禁ず。故に刑罰 用いずして、威 行わるること流るるが如く、政令 約省にして、化 耀くこと神の如し。故に其の性に因れば則ち天下 聽從し、其の性に拂えば則ち法 縣くも用いられず。
現代語訳
その性がなければ、教えても仕方がない。性があっても、養いがなければ、道に従うことはできない。繭の性は糸になることである。それでも、女工が熱湯で煮て糸口を引き出さなければ、糸にはならない。卵が雛になるのも、母鳥が温めて抱き続け、日を重ね久しく積まなければ、雛にはならない。人の性には仁義の素質があるが、聖人が法度を定めて教え導かなければ、正しい方角に向かわせられない。だから先王の教えは、人が喜ぶものに沿って善を勧め、人が嫌うものに沿って悪を禁じた。だから刑罰を使わずに威が水の流れるように行き渡り、政令は簡素なのに感化は神業のように輝いた。その性に沿えば天下は聞き従い、その性に逆らえば、法を掲げても用いられない。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『淮南子』泰族訓誠に其の善志を決し、其の邪心を防ぎ、其の善道を啟き、其の奸路を塞ぎ、與に同じく一道に出づれば、則ち民性 善くす可くして、風俗 美とす可きなり。扁鵲を貴ぶ所以の者は、其の病に隨いて藥を調うるを貴ぶに非ず。其の脈血を息め、病の從りて生ずる所を知るを貴べばなり。聖人を貴ぶ所以の者は、罪に隨いて刑を鑒るを貴ぶに非ざるなり。其の亂の由りて起こる所を知るを貴べばなり。若し其の風俗を修めずして、之を淫辟に縱にし、乃ち之に隨うに刑を以てし、之を繩するに法を以てせば、天下を殘賊すと雖も、禁ずる能わざるなり。
-
『淮南子』齊俗訓凡そ物を以て物を治むる者は物を以てせず、睦を以てす。睦を治むる者は睦を以てせず、人を以てす。人を治むる者は人を以てせず、君を以てす。君を治むる者は君を以てせず、欲を以てす。欲を治むる者は欲を以てせず、性を以てす。性を治むる者は性に於いてせず、德を以てす。德を治むる者は德を以てせず、道を以てす。人の性に原づくに、蕪濊にして清明を得ざる者は、物 或いは之を堁せばなり。羌・氐・僰・翟、嬰兒 生まるるに皆な聲を同じくす。其の長ずるに及びてや、重象狄騠すと雖も、其の言を通ずる能わざるは、教俗 殊なればなり。今 三月の嬰兒、生まれて國を徙れば、則ち其の故俗を知る能わず。此に由りて之を觀れば、衣服禮俗なる者は、人の性に非ざるなり、外に受くる所なり。夫れ竹の性は浮くも、殘して以て牒と為し、束ねて之を水に投ずれば、則ち沈む。其の體を失えばなり。金の性は沈むも、之を舟上に託すれば則ち浮かぶ。勢に支うる所有ればなり。夫れ素の質は白きも、之を染むるに涅を以てすれば則ち黑し。縑の性は黃なるも、之を染むるに丹を以てすれば則ち赤し。人の性に邪無きも、久しく俗に湛れば則ち易わる。易わりて本を忘れ、性の若きに合す。
-
『淮南子』詮言訓凡そ身を治め性を養うは、寢處を節し、飲食に適い、喜怒を和し、動靜を便にし、己に在る者をして得しめて、邪氣 因りて生ぜざらしむ。豈に瘕疵と痤疽との發するを憂えて、豫め之に備うるが若けんや。夫れ函牛の鼎 沸きて、蠅蚋 敢えて入らず。昆山の玉 瑱ちて、塵垢 汙す能わざるなり。聖人は去るの心無くして、心に醜無し。取るの美無くして、美 失われず。故に祭祀に親を思いて福を求めず、賓を饗して敬を修めて德を思わず。唯だ求めざる者のみ能く之を有つ。尊位に處る者は、公道有りて私説無きを以て、故に尊と稱せられて、賢と稱せられず。大地を有つ者は、常術有りて鈐謀無きを以て、故に平と稱せられて、智と稱せられず。內に暴事の以て怨を百姓に離る無く、外に賢行の以て忌を諸侯に見わす無し。上下の禮、襲いて離れず。而して論を爲す者 莫然として觀る所を見ず。此れ所謂 形無きを藏する者なり。形無きを藏するに非ざれば、孰か能く形せん。三代の道う所の者は、因なり。故に禹の江河を決するは、水に因ればなり。后稷の種を播き穀を樹うるは、地に因ればなり。湯・武の暴亂を平らぐるは、時に因ればなり。故に天下は得可くして取る可からず。霸王は受く可くして求む可からず。
-
『淮南子』詮言訓凡そ人の性、少なければ則ち倡狂、壯なれば則ち暴強、老いては則ち利を好む。一人の身、既に數ば變ずるなり。又た況んや君 數ば法を易え、國 數ば君を易うるをや。人 其の位を以て其の好憎を通ずれば、下の徑衢、勝げて理む可からず。故に君 一を失えば則ち亂るること、君無きの時よりも甚だし。故に『詩』に曰く、「愆たず忘れず、率ね舊章に由る」と。此れ之を謂うなり。君 智を好めば則ち時に倍きて己に任じ、數を棄てて慮を用う。天下の物 博くして智 淺し。淺きを以て博きを澹すは、未だ能くする者有らざるなり。獨り其の智に任ずれば、失うこと必ず多からん。故に智を好むは、窮術なり。勇を好めば、則ち敵を輕んじて備えを簡にし、自ら負みて助を辭す。一人の力を以て強敵を禦がんとし、眾多に杖らずして專ら身才を用うるは、必ず堪えざるなり。故に勇を好むは、危術なり。與うるを好めば、則ち定分無し。上の分 定まらざれば、則ち下の望 止む無し。若し賦斂を多くして府庫を實たさば、則ち民と仇と爲る。少なく取り多く與うるは、數の未だ之れ有らざるなり。故に與うるを好むは、怨を來たすの道なり。仁智勇力は、人の美才なり。而れども以て天下を治むるに足る莫し。此に由りて之を觀れば、賢能の任ずるに足らずして、道術の修む可きこと明らかなり。
-
『淮南子』泰族訓民に好色の性有り。故に大婚の禮有り。飲食の性有り。故に大饗の誼有り。喜樂の性有り。故に鐘鼓管弦の音有り。悲哀の性有り。故に衰絰哭踴の節有り。故に先王の法を制するや、民の好む所に因りて之が節文を爲す者なり。其の色を好むに因りて婚姻の禮を制す。故に男女に別有り。其の音を喜ぶに因りて雅・頌の聲を正す。故に風俗 流れず。其の家室に甯んじ妻子を樂しむに因りて、之に教うるに順を以てす。故に父子に親有り。其の朋友を喜ぶに因りて之に教うるに悌を以てす。故に長幼に序有り。然る後に朝聘を修めて以て貴賤を明らかにし、饗飲習射して以て長幼を明らかにし、時に搜して旅を振るいて以て兵を用うるに慣らし、學庠序に入れて以て人倫を修む。此れ皆な人の性に有する所にして、聖人の匠成する所なり。
-
『淮南子』泰族訓聖人は天のごとく覆い地のごとく載せ、日月のごとく照らし、陰陽のごとく調え、四時のごとく化す。萬物 同じからざるも、故無く新無く、疏無く親無し。故に能く天に法る。天は時を一にせず、地は利を一にせず、人は事を一にせず。是を以て緒業は多端ならざるを得ず、趨行は方を殊にせざるを得ず。五行は氣を異にして皆な適調し、六藝は科を異にして皆な道を同じくす。